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屹然最上階、医務室。
汚れ一つない清潔なベッド上で、柊は深い眠りについていた。そんな柊の手を握ったり離したりしながら、時空は何時間も見守っていた。
医者によると、体の傷は見た目よりも酷いものでは無く痕にはなるものの、数ヶ月すれば完治するとのこと。
「……、………。」
コンコンと木製の扉からノックの音が聞こえてきたが、時空は振り返りもせず、ただジッと柊の側に座っていた。
「…チッ、入るぞ。」
ついに痺れを切らした刹那が部屋に入ってくるが、それでも時空は反応を示さなかった。
「時空。いつまでそこにいるつもりだ。」
「…………。」
「水も飯も摂らないでよォ。お前は悲劇のヒロインでも演じてるつもりか?」
時空の首根っこを掴み上げて無理矢理立たせ、何とか言えよと睨んだ。
「…私が、彼を……、………。」
「あ"ァ"?聞こえねーよ。」
「私が…っ!!私のせいで、彼は…!!柊が、こんな目にあったのは私のせいだ……!」
悔しそうな、悲しそうな顔で時空は刹那を見つめ返し、絶対に泣くまいと口をきつく結んだ。
「主人の不注意で下僕が殺されかけたのは分かった。…そんで?お前はどうしたいんだよ?いつまでも感傷に浸って「今めっちゃ傷ついてるピエン〜」アピールでもしたいわけ?」
時空の首根っこを離し、刹那は面倒くさそうに溜め息をついた。刹那の手から解放された時空は、重力のままドサリと地面に座り込む。
「ダッサ。とんだ構ってちゃんだな。」
「柊は、………。」
「あン?だから何言ってんのか聞こえねぇよ。はっきり喋れクソ野郎。」
「……柊は、下僕じゃ、ない…。」
「はぁ?」
「私達は、…柊は、私にとって家族そのものだったんだ。下僕なんかじゃない。」
「お前がそう思ってても周りは違かった。だからこうなってんだろ?つーかそれを俺に言っても仕方ねぇし。」
「じゃあ誰に言えばいいんだ!!私が何を言っても耳を貸さない連中に向かって、一体何を言えば良いというんだい!?」
床を拳で何度も何度も殴り、時空の白くて細い手は段々と血が滲んでいった。
「…頭の中夢の国なんかお前は。ピンチになったらヒーローが駆けつけてくれるだなんて思うなよ?そんなもん何年待っても来ねーよ。
全部自分で何とかしろ。もうママにおしめ替えてもらうような赤子じゃねぇだろーが。」
「でも、だって、私は何度も…」
「うっせぇ一々駄々こねんな17歳児!!でももだってもねぇわ!!馬鹿、ぶりっ子、間抜け!道ぐらい自分で見つけろ!!」
「ば、馬鹿…ぶりっ子…間抜け……。」
「お前さ、ほんと何なの?馬鹿なの?こうって決められたことだけが全部じゃねぇだろ。そこに道がねぇなら自分で作れば良いんだよ。」
「…………。」
「前例だって、誰かが作らなきゃ前例にはならねぇだろうが。それと同じだ。」
「……じゃあ、どうすれば?」
「その答えを出すのはお前自身だ。俺や周りに頼んな、甘えんな。自分で何とかしろ。」
床に座り込んだままの時空を見下ろし、刹那はふんと鼻で笑う。
「言いたいことは終わったから。俺はもう行くけど、1時間経っても出てこなかったら無理矢理引きずり出すからな。」
「分かってる。ちゃんと食事は摂るよ。」
「よろしい。んじゃまたな〜。」
満足げに笑って扉に向かって歩き出す刹那に、時空は慌てて声をかけた。
「刹那!」
「ん?」
「私、………私が、当主になる。」
刹那は顔だけ振り返り、結んだままの唇に微かな笑みを浮かべて頷いた。
「ひひっ、良いじゃん。祭りよりも派手な親子喧嘩を期待してんぜ。」
.
あの後自室に戻った時空は、広いベッドの上でぼんやりと天井を眺めながら寝転んでいた。
「……明日には、起きてる、かな。」
明日も明後日もその次も、彼が目覚めるまで待ち続けよう。と時空は心に決め、そっと目を伏せて深呼吸をした。
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