さみしさは酒でうめられない

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「……失恋をして、未練たらたらなのはだれだ?」  おそらくだ。いや、おおよそ見当はつく。答えは(わか)っていた。鏡に映っている、自分に決まっている。  俺は左手に持った鏡に問いかけるが、返答はない。あたりまえだ。鏡がしゃべるわけがない。安物買いの銭失いというのは、こういうことだ。せんべろ飲み屋を梯子してべろべろに酔っ払って、へんな露店のおやじから声をかけられて調子のって鏡なんて買ってしまう自分がわるい。  舌打ちをして、俺はウオッカベースのレモンサワーをぐびぐびとあおるように呑んだ。もう三十路(みそじ)にちかい。なのに、まったく成長してない。そんな自分に笑ってしまう。  ローテーブルには、さきほどコンビニで買ってきたスナック菓子やあたりめ、プリン、空き缶が散乱している。コンビニの店員の(いぶか)しげな視線が痛々しくかわるほど、俺は酔っぱらって帰宅した。  帰ってすぐに、ビニール袋をあさり、プルタブをひらいていまにいたる。テレビに視線を投げるが、見る気力もなくリモコンも見当たらない。  ……あの部屋よりマシだけど、つまらないな。  この部屋は、広いくせになにもない。二部屋もあるのに本棚とテレビ、ベッドしかない。背凭れがわりにするベッドなんて、毛布はくしゃくしゃにめくり上がり、起きたばかりのほら穴がぽっかりと黒くできている。  会社に行って、帰って寝る。そんな場所だ。  くそ、やっと忘れたと思ったのに……。  憂さ晴らしにチューハイを叩きつけるように置いた。気分は晴れない。お気に入りの酒がプルタブからほんのすこしだけ飛び散った。  ほんとうに、なんでこうなった。  また、缶を口に運ぶ。炭酸の泡ごと呑み込む。レモンの酸味が喉を通り、ぐらぐらとした酔いに加算されていく気もしない。  やっと、やっと、忘れたと思ったのに、なんでだよ……!
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