さみしさは酒でうめられない

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 そんな感じで、あの日がやってきた。  半年前の、だれかの送別会だった気がする。  めずらしくべろべろに貴宏は酔っていた。カラオケの三次会も終わり、そばによって介抱してやると、隣にいた短髪のヤツが上からケラケラ笑った。 『こいつ、好きやつがいるのに告る勇気もないアルファなんだよ』    と、大声でまた笑う。  酔いつぶれた貴宏を叩いて、俺の腕の中にドンと押した。面倒を見る気もないのか、そいつは手をひらひらとふって、彼女のアパートへ颯爽と帰っていった。  好きな子がいるんだと知った。ちょっとショックだった。いや、かなり落ち込んだ。ああ、そうだ。送別会の主役はオメガのゆかりちゃんだった。残念だ。こいつでも失恋するのか。  この女子は結婚を機に退職して、ご主人の転勤先についていくらしい。宴もたけなわのうちに彼女は一次会で帰っていった。さびしいけどめでたい。けど、後ろ姿に見えたうなじにくっきりとした歯型が浮き出ていて、リアルすぎて引いた。オメガというバースは存在する。幸せいっぱいの彼女を見送り、理由もなく沈鬱な表情になり、考えされられた気分になった。  そんなことを思い返しながら、腕の中で寝ているアルファ男をゆり起こす。起きやしない。  終電も終わって、とりあえず吐きそうになる男をかかえて、店を追い出された。ぶつかってくる酔客から逃げていると、ホテルを指差すアルファ男。十一月の冷えた夜気は肌寒くて、ぶるぶる震えた俺はホテルに足をむけて、急ぎ足で奥へと向かった。看板には『ハッピーホテル』とあった気がするが、そんなのどうでもよかった。    長身で酒くさい男をベッドにささげて、ミネラルウォーターを横に置いて早々に寝た。吐き気もおさまったらしい。スヤスヤと寝息をたてた横顔は、鼻梁の通った端正な美形だった。眺めるだけで、眼福。一時間ほど見続けてしまった。  そして、朝方、それはおこった。どうしてか、だれかと間違えたのか、キスを求められた。ラッキーである。元々ゲイでネコだったけど誰にも求められたことがない俺は、ご無沙汰なのもあり、チャンスとばかりに、そのキスを受け入れてしまった。本当はあまりにもびっくりしてしまい、身体が動かなかった。
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