さみしさは酒でうめられない

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 つき合おうとか、そういうのはなかった気がする。  それからだ。セフレという、いかがわしく、爛れた関係を築いてしまった。  どんな感じだったか? そんなもの説明するまでもない。  俺の家で待ち合わせをして、遅い晩飯を一緒に食べてヤルだけだ。俺はとても健気なので、会うときは必ず粉末食物ファイバーを前日に飲んでいる。食べものだって気をつかっていたし、ユーチュープで裏切らない料理のレシピをなんども試して作った。  あいつが世界一おいしいと口にした料理は、リュウリュウの至高シリーズだ。胃袋をがっちりつかむのは基本中のキホン。  そんなことも知らないくせに、あいつはコンビニ袋片手にやってきて、袋の底にはデザートのプリンを忍ばせてドアをあける。  和やかな会話を交わしたり、テレビを観たりして食事を済ませる。風呂は一緒にはいらない。疲れているあいつが先だ。シャワーのノズルを突っ込んだ姿を見られたくないのもある。それに、あまりにも準備に時間がかかってしまい、寝ているのかと思ったときもあった。腹が立って、顔を近づけると、唐突に引きよせられてキスされた。あの不敵な笑みがずるくて(ほだ)されてしまう。  そして、やっと、コトに及ぶ。 「うん、ぁっ……、あふぅ、そこ、いい、いい」 「きもちいい?」 「う、ん……ひぁっ」  はじめはいつも手足をついて尻を突き上げ、太腿をおしひろげられる。小暗い割線のすぼまりがあらわになり、しげみを撫でられた。はけ口を見つけるように片手で俺のうしろをくじりはじめ、空いた手で芯のあるものを甘美にしごいてくる。両刀つかいもいいところだ。あ、こいつ、童貞じゃないなと思った。が、恥ずかしさでどうでもよくなった。 「そんなに枕に突っ伏していると、息ができないよ。こっちをみて」 「い、ぁ……、やだよ。恥ずかしい」 「痛くしないから、大丈夫」  なにが、大丈夫なんだ。クスクス笑うな。いつも大丈夫って聞くけど、全然大丈夫じゃない。おたがいすっ裸で、やることは決まっているんだ。オメガだったらヒートなんだと、快感におかされた思考をごまかせたかもしれない。 「こんなっ……、恥ずかしい。自分でやったし……」 「そういっても、まだきゅうって締まってるよ? 一緒にお風呂でしようっていったのに全然許してくれないよね」  ちょっと拗ねた声をだすな。  俺はオメガみたく濡れないんだよ。粘膜を保護するアルカリ性の腸液しかでなくて、申し訳ありませんね。なんて、言えるわけがない。真っ赤になりながら枕に突っ伏して愛撫に耐えた。  貴宏はくすんだ部分の皺を一本一本のばして、たっぷりのローションで感覚がなくなるぐらいほぐしてくれる。乳白色の液体が太腿をつたって、ベッドのシーツをしとどなく濡らす。指すらも締めつけてしまい、恥ずかしさで消えたくなった。 「あっ、あっ、い、いきそう……」 「まだはやいよ。でも、すごいひくひくしてる。生き物みたいでかわいい」  実況やめろ、と、なんども胸のなかで毒つく。が、弓なりに反った体はがくがくと弾んでしまう。 「はぁ……っ、あっ……、あっ、ん……」 「ここ、どう?」  人差し指と中指とで、中をすりつぶすようにこすっていく。 「あっ……、あっ、あっ、そこ、も……、だめっ……」  入口から中指の関節の節が通り抜けると、ツンツンと、その先を指で突かれた。そのたびに、身体が反応して辱めを受けている意識が芽生えてしまう。それはゆっくりと、そしてやさしい指づかいいだった。 「いきそう? 前立腺って、きもちいいってきいたけど一回出したほうがいいかな? 大丈夫?」 「き、ひぁっ、きもち、……ぁいいっ。……だ、だいじょおあ、ぶ……んんっ」  つつかれるたびに、灼熱した鉛の液体が息子から噴射した。それでも、だらだらと汁がたれ流される。  もどかしくて、さわろうと伸ばすと手首をつかまれた。 「だめだよ。ここは僕がさわってあげるでしょ。それとも乳首のほうがいい? やめる?」  その疑問形もやめろ。決まりかねている答えを引き出すな。 「や、だっ、……んっ」  せり上がってくる、びりびりとした快感が、こわくて、またぎゅうっと枕にしがみついてしまう。ふるふると頭を横に振って、かすれる声と吐息が洩れた。やめて欲しいのに、入口の先をしつこくツンツンとされて、なんども昇りつめてしまいそうになった。 「かわいい。多田村がこんなにかわいいの、僕しか知らないんだよね?」 「はぁっ、あっ、あ、ァッ、……きむらぁ、んっ、そこ、しつこい」 「たかひろって名前でよんでって言ったよね。わかる?」  ぜんぶ、疑問形やめろ。しつこい。 「や、だよ。あっ、そこ、だめだめだめ、いく、いっちゃうっ」 「いかせない。まだなかにいれてもらってないよ?」  貴宏はくるりと身体を向かい合わせ、俺を膝に座らせた。 「あ、なに……?」 「足をひらくのがむずかしいから、対面にしよう。自分でいれてくれる?」 「え……」 「大丈夫、ゆっくりでいいから。息を吐いて」 「んぅ……あ、ぁッ……」  俺は素直だ。  アルファを独占できるのは、いましかない。本日はアルファ独占禁止法を敷いたと思えばいい。  なんてことを冷静に言葉にできることもできず、俺はかわいいウサギのふりをして、こくりとちいさく頷いた。  そのときの自分を、横からバットで殴りたい。
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