さみしさは酒でうめられない

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 ここまではふつうのセフレだ。どうやって別れたんだっけ?  ——……ああ、そうだ。電話だ。  別れなんて、簡単だ。  あいつの海外転勤がきまって、たまに電話した。食べてるものが違うとか、言語がちがっても皆優しいとかそんなたわいもない内容を交換する。でもそれも段々と少なくなってきた。忙しいに決まっている。時差だってある。電話すると、あっちはいつも朝だ。ほんの数十分の会話がうれしかった。  それが、同期のある一言でぶち壊された。 『あいつ? そうそう。向こうで、ナイスバディのオメガ令嬢と一緒に住んでるらしいよ。あっちのオメガは性格もきついし、押しに押されたんじゃないか? 上司のすすめも断ってきたのにめずらしいよな。ま、あっちで大型案件受注してて、調整で忙しいのもあんだけど癒しを求めたんじゃねえの?』  と、同期の口から聞いたのがきっかけだった。きわめつけがコレだ。 『ああ、あと運命の(つが)いにでも逢ったんじゃね??』  ゲラゲラ笑っていた、あの余計なひと言。  ガーンと、後頭部を殴られたようなショック。  ああ、俺はなにをやってるんだろう。もう、自分から電話するのをやめよう。そう思った。メールひとつ、来ないじゃないか。  五文字打つのに何秒かかるんだ。  それに、運命の番いってなんだ。リュウグウノツカイしか知らない。うそ。俺はずっと前に買っていたオメガバースの教科書を手にとって、アルファとオメガの関係性にいまさらながら考えさせられた。  正直いうと、歓送迎会で見送った、あの、ゆかりちゃんの幸せそうな顔が忘れられなかった。  四百ページもある本を、ビール片手にめくる。  アルファとオメガ、おまけのベータ。おまけってなんだ。番い関係がないおれたちは、そもそもつき合ってもいなかった。はたと、そこで重大なことに気がついた。そもそも番いにもなれないじゃないか。  それで、しばらくたった、ある日、やっとかかってきた貴宏の電話に言ってやった。
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