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だが、完全に自分の殻に閉じ籠っていたそのオメガは、誰の好意も受け入れようとはしなかった。
しかし、いつも孤高の花のように振舞っておきながら、時折見せる弱く儚い様子は見る者を強烈に惹き付け、そいつに熱を上げる者は後を絶たなかった。
そして、両親を事故で失った悲劇は人伝に周辺へ広がっていたので、何処に行っても同情されて憐れみの眼で見られた。
“なんて可哀想なオメガなんだろう。これからは自分が、亡くなったご両親の分も愛情を注いで、しっかり守ってやらないと”
己の器量に自信のあるアルファ達はそう思い、一層の求愛を繰り返すようになったのだ。
彼らは、どんなにそのオメガに邪険に扱われても諦める事はせずに、忍耐強く求愛を続けた。
いつか必ず、自分に振り向いてくれる日が来ると信じて。
そんな風に、多くのアルファを侍らせていたオメガだが。
しかし、そんなオメガにも、一人だけ親友と呼べるオメガが居た。
親友は、そのオメガに比べて、とくに器量が良いわけでも頭が良いわけでも無かったが。
だが、気立てが良くて優しいその親友の事を、そのオメガは誰よりも大切に思っていた。
――――実は、神は最大のミスを犯していたのだ。
華奢で可憐で、典型的な『愛される為のオメガ』というような造形に作っておきながら、なんとそのオメガは、中身はアルファのような気性だったのだ。
“愛されるのではなく、愛したい”
“恋人に抱かれるのではなく、自分が恋人を抱く側になりたい”
そのオメガは見た目に反して、物心ついた時からそう思っていた。
それ故、ハイレベルのアルファ達がどんなに言葉を尽くして熱心に口説いても、そのオメガは誰にも靡く事はなかったのである。
だが、ある日。
それが激変する事態が起こった。
なんとそのオメガに運命の番が現われたのである。
通常ならば、この奇跡の出会いに感動して、そのまま番に成る道を歩むのだろうが……。
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