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「き、君の名前はなんていうんだ!?」  実里は持っていた鞄を放り投げ、その男の腕を掴むと、頬を紅潮させながらズイッと迫るが。  その実里の身体を、方々から伸びて来た手がガッチリと捉えて男から引き剝がした。 「こいつ、西城さんに何をする気だ!」 「離れなさい!!」  多勢に無勢、哀れ実里は男から遠くに追いやられる。  ここは、Fビルの一階ロビーだ。色々な企業が入っている総合ビルで、中でも一階部分は、カフェやコンビニも入っているかなり広いスペースとなっている。  だが、突然始まった剣呑なやり取りに、賑やかだった周囲は一斉に静まり返った。  しかし実里はそれに怯まず、元ラグビー選手の本領を今こそ発揮するように、再び突進する。 「僕の名前は飯岡実里! こう見えてもオメガなんだっ」 「この無礼者!!」  ボディーガードらしき黒服が実里の前に立ちふさがり、もう一人の黒服が、実里の身体を力いっぱい突き飛ばした。  不運にも実里は、飛ばされた先にあった壁に思い切りぶち当たり、そのまま無様な格好でダウンしてしまう。  目の前で星が飛び交い、意識が薄れて行く。  そんな実里の耳に、(くだん)の男が吐き捨てる声が聞こえて来た。 「何なんだ、あいつは? 不愉快な」 「あんなヤカラは放っておくの一番です。さぁ、参りましょう西城さん。大川会長との約束の時間が迫っております」  その会話を最後に、男達は去っていく。  実里は何とか声を絞り出して、その背中へ訴える。 「君は、僕の運命の番なん、だ……」  しかしその声は、男に届く事は無かった。
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