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「おいおい、大丈夫かよ」
その声に、ぐったりと長椅子に横たわっていた実里はピクリと反応した。
ゆっくりと目を開くと、心配そうな顔で自分を見下ろしている真駒大地と目が合った。
大地とは、同じ会社で働いている同期の仲だ。
明るくて気さくで、営業先からも好かれているベータの青年である。
「……大地」
「なんか、どっかのお偉いさんのSPにぶっ飛ばされたんだって? こんな所で寝てないで、病院行った方がいいんじゃねーの?」
その事に、今更ながら恥ずかしいような気になって、実里は曖昧に笑った。
「え、えへへ……」
「っかし、なんでそんな事になったんだ? 営業から戻ってきたら、実里がダウンして休憩室の長椅子で寝ているって聞いたから、ビックリしたぞ」
「うーん、これには色々事情があってさ……いてて」
実里は上体を起こしながら、これまでの経緯を説明した。
営業から戻って来て、このビルへ一歩入った瞬間に、自分の運命の番と出会った訳だが。
それがとにかく嬉しくて、考えるよりも先に身体が動いてしまっていた。
男の腕を掴んで「君の名前はなんていうんだ」と訊ねたのだが、その行動が不審だと思われたらしく、男のボディーガードらしき連中に阻止されてしまい。
それでも、どうにかして運命の番であることを伝えようとしたのだが、最後に思い切りボディーガードに弾き飛ばされて壁に激突してしまい、そうして今に至ると。
「あははは、突然腕を掴まれたら、そりゃあ警戒されちゃうよね。幾ら嬉しかったっていっても、TPOを無視しちゃあダメってことかな」
実里の説明を聞くと、大地は唖然とした様子で口を開いた。
「マジかよ。お前、オメガだったの?」
「え、えぇ!? そこっ?」
「俺はてっきり、実里は俺と同じベータだとばかり思ってた」
オメガといえば、男女とも、華奢で可憐な外見をしている人間が多いものだ。
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