不安しかない症候群

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「まず、ボールを見ること。絶対に目はつぶらない。これが一番大事! わかった?」  素振りを見ていてくれた類くんが、私の横に立ち熱心にコツを教えてくれる。 「で、腰を後ろにひねる、こうやって」 「うん?」 「ああ!? バットの持ち方、おかしいって! 右利きなのに、なんで左手上にしてんの! 基本ができてない!」  え? バットってずっとこう持つものだと思っていた!!  驚く私を見かねた類くんがため息をついて。 「はい、手はこうね? で、このあたりで構えて」 「!!!!」  私の背中から、まるごと抱きしめられるような。  バットを持つ私の手を、包み込むように重ねられた類くんの手……。  待って、近い、近すぎる。  もろに背中に類くんの体温を感じる。   「で、腰は打つ前に後ろにひねって、バットをスイングしながら右脚を移動させんの。ひざの内側に体重かけて」 「類、くん、あのっ、あのっ!!」 「ん?」 「バット! 振れない! 近くて……、えっと、」 「あっ、」  カタコトになった私が緊張で固まっていることに、類くんはようやく気付いてくれたようで、慌てて一メートルほどの距離を取ったくれた。 「近すぎたよね。ごめん」 「う、うん。大丈夫」  お互いに多分、真っ赤な気がする。
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