幸せが怖い病気

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 いつからそこにいたのか、彼の気配に全然気づけなかった。  この時間に一人で来てるということは、目的は私と同じかな? 「えっと……。写真、ですよね? どうぞ」  校門前にあるこの大きな桜の樹。  太く立派な幹、枝をしならせるほどふんだんに花を咲かせる。百年桜と呼ばれていて地元では有名な樹だ。  写真を撮るためだけに訪れる人も多いし、朝早くじゃなければこうしてひとり占めできたりはしないだろう映えスポット。  彼もまた入学式にこの樹の下で写真を撮るのを楽しみに来たのかもしれない。  それと、もしかしたらもう一つの……。  どうぞ、と退けようとした瞬間。 「動かないで!」 「え?」 「じっとしてて」  どういうこと?  大きな声に驚き、動けなくなった私。  足元に落ちていた細い枝を拾った彼が、私の背中側に回り込んでくる。  左肩のあたり、触られた気がして視線をそこに向けると見えたのは、彼が手にしていた枝。  その枝が肩の先で動く何かを払い落とした。  足元に落ちた黒いもの、それは。 「ええっ!? んんっ、んんんんんーっ!!」  大声をあげそうになって、それでもどこか冷静に近所迷惑にならないためにと両手で口を覆い悲鳴を抑えた。  黒いものの正体、それは大きな毛虫、その恐怖にジタバタと暴れそうになる私に。 「もう取れたよ。よく見て、上。まだ結構いる」  彼の言葉によくよく目を凝らしたら、ああ、本当だ。あちこちで黒くうごめく毛虫さんたち。  ひいっと小さく悲鳴を上げて、桜の下から逃げ出した。
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