幸せが怖い病気

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「まだ、ついてない? もう、大丈夫?」  半泣きでピョンピョン跳ねながら、ついているかどうかもわからない毛虫を、必死で落とそうとしていた私の耳に届いたのは。  プッと吹き出した笑い声、え? 「もう、ついてないから落ち着いて。それより」  笑いながら近づいてきた彼は私の髪に触れるようにして、何かをつまむ。  また、毛虫かも、と肩をすくめたら。 「桜、まだついてるし」  彼の手のひらが私の頭を撫でるように掠め、花びらを落とす。  その優しい感触になんだか、ドキドキしてしまって。 「あっ、あの、えっと。あり、ありがとうございます! 一年生? 入学式? 私も! 一緒!!」 「……、なんでカタコト?」  また笑い出した彼に釣られて私も苦笑する。  緊張すると言葉が繋がらない癖、入学初日から出ちゃってた。 「写真、撮ってあげようか?」  貸して、と私のスマホに手を伸ばしてくれた彼を至近距離でマジマジと見上げた。  さっき初めて私を見ていた時のような表情ではなく、優しそうに目を細めて笑う彼に。  なぜだろう? なんでだろう? あとで考えてみても、この時の自分は、少しおかしかったとしか言いようがない。 「あのっ! 一緒に、撮らない?」  その意味に気づいた一瞬だけ驚いたように目を丸くしてから、ああ、と苦笑して。 「俺も、いいの?」  ブレザーのポケットから自分のスマホを取り出した彼は私と並んで笑う。   ――真っ青な空、風に舞う桃色の花びら、お互いにどっちのレンズに焦点を合わせたらいいかわからずに笑っている私たち。  この写真は、あれから一番の宝物だ――。
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