70人が本棚に入れています
本棚に追加
「昨日ね、私いいこと聞いちゃったんだ~!」
「なあに?」
ポケットからブラシを出した梨乃ちゃんが、立ち上がり私の背後に回る。
「え? ちょっと、梨乃ちゃん?」
突然、丁寧に私の長い髪をブラッシングし始めた梨乃ちゃん。
「類くんって、ロングヘアが好きらしいよ?」
「……へえ」
「陽にあたったら赤茶色に見える、細い髪の毛ってキレイだよなって言ってたらしい」
「……ふうん……」
待って? ねえ、待って? それって!
肩にかかった自分の髪色をひとつまみして窓からの陽にかざす。
光にあたると茶色より赤っぽく見える細い髪質のロングヘア。
毎回トリートメントをして手入れをしないと、すぐに傷んじゃうぐらいコシのない柔らかい髪の毛だ。
私にとっては、ひどくコンプレックスだったのに今日ほどこの髪質で良かったと思ったことはない!
「なんか具体的でしょ? 誰かさんの髪の毛に似てるし」
「絶対、嘘! そんなの類くんが言うわけない」
「ええ? どうして信じてくれないの? せっかく私がテストの山と引き換えに男子から聞き出した貴重な情報を! 男子たちの間でショートとロング、どっち派かって話になったんだって。そしたら類くんだけ、髪質まで話してたとか」
前髪も梳かそうね、と真正面に回り込んできた梨乃ちゃんは微笑んだ。
「その男子も言ってた。まるで天野の髪の毛みたいじゃね? って。アイツら、やっぱ付き合ってんの? て聞かれたよ」
「付き合ってないよ」
「そうだね、まだ付き合ってないもんねえ? 残念」
「まだとかじゃない、付き合えないの。きっときっと絶対に!」
「なんで、そう決め付けてるのよ? 類くんのことになると、日菜はすぐムキになるんだから」
ヘラヘラと余裕な顔をして笑う梨乃ちゃんは、サッカー部のマネージャーになって、すぐに二年生の部員と付き合い出した彼氏持ちだ。
そのせいか私にも早く彼氏をと、仲良しの間宮類くんを勧めてくるんだけど。
最初のコメントを投稿しよう!