幸せが怖い病気

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「日菜、コレあげる! 間違って買ったやつ」  放課後、昇降口に類くんがいた。  私を、待ってくれてた?  私の大好きなフルーツ・オレのパックをホイっと放り投げられて、アタフタしながらも両手で無事にキャッチした。 「ありがとう」  類くんの手には、飲みかけのカフェ・オレ。  パックにストローを差し込んで、類くんの横に並んで歩き出す。  チラリと横目で見た昇降口前の販売機には、カフェ・オレとフルーツ・オレは離れた配置。  私がフルーツ・オレを好きなこと知っててくれた、とか?  もしかして私を待っててくれた? なんて絶対に聞けないけど、心の中のテンションは爆上がり。  類くんがくれる口の中に溶けた甘い幸せで、ニマニマと簡単にゆるんでしまう頬をどうにか引き締めないと。  あの日、入学式の朝に出逢った間宮(まみや)類くんとはクラスが一緒になった。   『朝の写真、交換しない?』  あの日も昇降口で呼び止められ、類くんの提案でメッセンジャーIDを交換しあった。  好きなお笑い芸人の話だったり、音楽だったり、そんな他愛もない会話がただ楽しい日々。  私が間宮くんのことを類くんと呼ぶよりも先に、『天野』から『日菜』に変わった五月の終りには。  私は類くんのことが、『好き』から『大好き』になってしまっていた。  だから、こんな風に二人の時間は嬉しくて怖い。  だってまた幸せが一つ増えちゃうから。  幸せを永遠に溜めておける装置がほしいよ。  ふうっと小さくついた贅沢な悩みのため息は、すぐに類くんに拾われた。
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