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「やだな、翔くん。なんでそんなこと聞くの」  焦る気持ちを隠して、愛理は作り笑顔を向けた。翔はそれに気が付いたれけど、愛理の心にどう触れて良いのかわからず、眉尻をさげ、微笑み返した。 「ん……ちょっと、そんな気がしただけ。じゃ、買い物したら、お昼ご飯食べて、それから送るね」  車がゆっくりと走り出す。駐車場の建物から出ると、重い雲が立ち込め、東京湾がけぶって見える。高速道路に入り、車のスピードが上がる。雨が窓ガラスを打ち付け、ワイパーがそれを拭う。  愛理はウインドガラスにもたれ、ぼんやりと外の景色を眺めていた。  やらなければいけないことが、山ほどあるのに、いざ東京に戻って来たらどこから手を付けていいのか、わからない。そればかりか、自分の居場所さえも上手く見つけられずに愛理の気持ちは不安定だった。  離婚に向けて問題を片付け、未来のために新たな生活を作っていく。  口にしてしまえば、簡単なのに、いざ実行するとなると途方もないエネルギーがいる作業だ。    横に居る愛理の沈んだ様子を気に掛けながら、翔はアクセルを踏み込んだ。やがて高速道路を下りた車は、ゆるゆると市街地を走り、ショッピングモールの駐車場へ停まる。   「おまたせ、着いたよ」 「ありがとう。ごめんね。余計な手間をかけさせちゃって」  ショッピングモールの寝具売り場で、愛理はため息をつきながら、カートの中に1組分のシングルシーツのセットを入れた後、バスタオルやタオルまで買い込んでいる。    インテリアコーディネーターの愛理だったら、2組分のシーツを買って部屋の色味を統一させるはずなのに、その買い物の仕方に翔は違和感を感じていた。    
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