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 愛理は泣かないようにギュッと目を瞑り、気持ちを整えるように細く息を吐き出してから話しを続けた。 「それで、淳じゃなくても、いいんだって思いたくて……他の人に……温もりを求めてしまったの」  その言葉に翔の胸は嫉妬の炎にジリジリと焼かれた。それでも冷静をつくろう。 「そのときの相手の(ひと)って、元カレとか? 知り合いの人?」 「ううん、マッチングアプリで知り合った人。軽蔑されても仕方ないと思っている。でも、あの時、私には必要だったの」 真面目な愛理がマッチングアプリを利用してまで、見ず知らずの男の温もりを求め抱かれたと思うと、翔の心にはやるせなさが募る。 「愛理さん、どうして……。本当にバカ兄キのせいで、マッチングアプリを使うなんて危ないじゃないか! どうして、オレに連絡してくれなかったんだ。いくらでも相談に乗ったのに」 「淳が不倫しているから離婚したいなんて相談、夫の身内の翔くんには、言えない……」  愛理の口から出た"夫の身内"という言葉に翔は改めて、自分のポジションを認識させられ、悔しそうに顔を歪めた。  うつむいたままの愛理は翔の様子に気付かずに話を続ける。 「……自分も淳と同じことをしたんだから、慰謝料とか言わない。離婚さえできればいいと思っている。でも、離婚したらウチの実家の仕事を切られそうで、自分が我慢すればいいのかな、なんて考えたりもしてる」 「そうやってひとりで全部抱え込んで、周りに頼ることをしない。いや、頼ることが出来ないのも兄キが愛理さんを甘えさせてやらなったからだ」  甘え上手なタイプは、人に自分の弱みを見せたり、頼みごとをするのを得意としている。それは素直に弱さをさらけ出すことに心理的抵抗がない環境があるから出来る。 逆に甘え下手なタイプは、自分よりも他人を優先して、自分なら大丈夫だと弱い部分をさらけ出せない。甘えることは、我がままだと思ってしまっている。  もしも、愛理が甘えることを知っていたら、悩みをひとりで抱え込まずに周りに助けを求めただろう。そうしたら、見ず知らずの男に温もりを求めるような真似はしなかったはずだ。 今まで、見つめることしか出来なかった愛理を自分が支えられたら……。甘やかして、泣かせるようなマネはしないのに。そう思うと、気持ちが抑えきれない。 「オレなら兄キと違って、愛理さんをもっと大事にする。ずっと、愛理さんのことが……好きだったんだ」
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