15

4/10
前へ
/222ページ
次へ
 頬を押さえ、顔を上げた愛理の瞳には、困惑した表情の淳が映った。   「叩くつもりじゃなかったんだ。愛理が……。他の(ひと)でいいなんて、言うから……」  愛理を叩いた自分の右手を見つめ、淳は独り言のようにつぶやく。  これ以上何かを言っても火に油を注ぐことになり兼ねない。そう思っていても愛理は気持ちが抑えきれず、心に溜まっていた言葉が口をつく。   「私が悪いの? 私は、ずっと頑張ったんだよ。疲れて帰っても温かいご飯作って。休みの日だって、洗濯したり、掃除したりして、家で気持ち良く過ごせるようにやってきたんだよ。淳は私のために何をしてくれたの?」    グッと手を握り込み、淳へ思いの丈を吐き出す。 「なにもしてくれなかったじゃない。そればかりか、話し掛けてもめんどくさそうにして、日常の会話さえまともにしていない。私はたくさん話をして、信頼し合える家庭が欲しいの。淳を信じられない。もう、無理なの」  切れた口の中は血の味がして酷く苦い。涙がジワリと浮かび、淳の姿がぼやけて見える。愛理は口を引き結び、涙をこらえた。 愛理から言葉を投げつけられた淳は、こみ上げる怒りを抑えるように、低い声で言う。 「俺から離れて行くなんて、ゆるさない。俺はお前のために実家にだって仕事を回して、いろいろしてやっているじゃないか」  実家のことを引き合いに出されて、言葉を詰まらせる愛理に、淳は大きく息を吐き出し、宥めるように話しかける。 「俺が悪かったよ。これからは、もっと家事も協力するし、話しもする。それでいいんだろう?」  
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2246人が本棚に入れています
本棚に追加