15

8/10
前へ
/222ページ
次へ
◇ ◇ 「愛理さん、どうぞ」  都内南部に位置する大森駅から商店街を抜けて、すぐの好立地。オートロック付きのマンション7階にある1LDKの部屋。そのドアを翔が開く。   「おじゃまします」と愛理は少し緊張しながら足を踏み入れた。コンクリート打ちっぱなしの壁に据え付けられた木製のラックには、建築設計の本と色々な街の素朴な民芸品などがバランス良く並び。低めのソファーや敷かれたラグの色も落ち着いた色で統一されている。仕事が忙しくなり、通勤時間を短縮したくて、一人暮らしを始めた翔のお城だ。 「普段、寝に帰っているだけだから散らかっているけど、好きに使っていいよ。お茶を入れるから座って、病院にも行ったから疲れたよね」  自宅マンションを出た後、そのままの足で翔の知り合いの医者に掛かり、淳に殴られた頬の診断書をもらったのだ。   「ごめん、カップがこれしかないんだ」  と翔が照れ笑いを浮かべながら、ローテーブルの上に不揃いのマグカップを置いた。  手にしたマグカップをよく見ると、東北にあるスキー場のロゴとうさぎのキャラクターが描かれている。 「かわいい……」  ゆるいキャラクターになんだか、ホッとして気が付いたら呟いていた。  中にはミルクティーが注がれていて、口にすると甘くて温かな液体が体に沁み込んでいく。 「カップ新しいの買ってくるよ」 「ううん、これでいいよ」  愛理は温かみを感じるように手のひらでカップを包む。 「ありがとう。翔くんが助けに来てくれて良かった……。私、淳のこと、初めて怖いと思ったの。そうしたら、体が思うように動かなくなってしまって……」  頭の中でさっきの出来事がよみがえり、マグカップを持つ手に力が入る。 「あそこまでする人じゃなかったのに……。私、感情的になって言い過ぎたんだよね」  そう言って、愛理は寂し気に雨上がりの窓の外へと視線を移した。  
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2246人が本棚に入れています
本棚に追加