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──もう、親の顔色を窺い、愛されることを期待する年齢でもない。いまさら両親に何を言っても、彼らの考え方が変わるとは思えなかった。  それよりも、自分を大切にしていこうと決めたのだから、親の意見に振り回されるのは終わりにする。 愛理は、スッと顔を上げ両親を見据えた。 「お父さん、お母さん、何を言われようとも離婚の意思は変わりません。夫の不倫を黙認して耐えるような生き方はできません」  その言葉に父は視線を泳がせ、母は気まずそうに俯いた。愛理は気持ちを強く持って言葉を続ける。 「親不孝な娘とは、縁を切って下さっても結構です。私は、誰かに依存して生きて行くのは嫌なの。自分で自分を幸せにするって決めたんです」 「お前は、家がどうなってもいいのかっ!」  父の自分勝手な思いやりのない言葉に愛理は嘆息をもらした。 「中村の家には、仕事のことをお願いするつもりです。けれど、仕事である以上、職人として”この人に仕事を任せたい”と思わせる内容の仕事をしていれば、私が離婚しようがしまいが、取引は続くはずです。だから蜂谷工務店としてプライドを持って良い仕事をしてください」 「まったく、生意気な!」  憤慨する父、それをなだめるだけの母、子供の頃は、逆らうことも出来ずに従うしか術がなかった。けれど今は違う。親は親、自分は自分、それぞれが、別の幸せを求めても良いはずだ。 「お話は以上です。これで帰ります」  愛理は立ち上がりリビングから出て行く。父がまだ何かブツブツと文句を言っていたが振り返らず、玄関へと向かう。  リビングを出て、直ぐ先にある玄関で人影が動いた。それは、久しぶりに見る弟の陽介だった。 「姉ちゃん、車で送るよ」    
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