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 シートが固く、けして座り心地が良いとは言えない軽トラックの助手だけど、乗用車と比べて視界が高く見晴らしがいい。  今まで逆らえなかった親に自分の考えをぶつけ、気分が高揚していたせいか、軽トラのシートに座ると、子供の頃に乗ったときのワクワク感を思い出した。  自分よりも3つ年下の陽介の運転、免許を取ってすぐの練習に付き合った時のことが脳裏に過ぎって、スリルもオマケについてくるかもしれない。などと考えてしまう。  そんな心配も杞憂なほど、車は滑らかに走り出した。よくよく考えれば、陽介は仕事で現場へ行くために毎日運転している。たまにしか運転しない愛理より、ずっと上手で運転に慣れていた。   「仕事で疲れているのにごめんね。駅まででいいよ。陽介も明日仕事なんでしょう」 「いいよ。電車だと乗り継ぎが悪いだろ。車なら高速使えば30分ぐらいだから」 「……昨日から、大森の方に居るんだ」 「家を出たんだ。中村さんと別れるの?」 「うん、もう、無理なんだ」  淳の口利きで、不動産リフォーム樹から実家の蜂谷工務店は仕事をもらっている。蜂谷工務店の跡取りの陽介にしてみれば、愛理の離婚話は、将来に不安が伴うだろう。  女だからという理由で大事にされなかった愛理、男だからという理由で過度な期待と責任をかけられた陽介。あの両親の元で育ったふたり、どちらが不幸で、どちらが幸せだなんて測れないのかもしれない。  
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