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翔のマンションの前で陽介の車から降り、頼もしくなった弟が運転する軽トラのテールランプを見送った。
部屋のドアを開けて、スイッチを押すとパッと部屋が明るくなる。
「ただいま」
落ち着いた色合いの翔の部屋。誰も居ない空間に、自分の声が溶けていく。
寂しさと安心が同居しているような不思議な感覚を覚えながら、愛理は荷物を下ろしソファーに身を預けた。
大きな山をひとつ越えてもまだ、やらなければならないことが、たくさんある。離婚というのは、結婚する以上に消耗するんだと、疲労感でソファーの背凭れに寄りかかり、天井を仰ぐ。
この部屋も翔の好意で使わせてもらっている。優しさに甘えるばかりで、なにも返せないのが心苦しい。
そんなことを考えていたせいか、スマホがLIMEの着信を告げる。
タップすると翔からのメッセージだ。
『大丈夫? 迎えに行こうか?』
実家に行くことを知っている翔が心配しているのが伝わって来る。
メッセージを打ち込むのがもどかしくなって、そのまま通話ボタンをタップする。コール音が聞こえて2回目の途中でビデオ通話が繋がった。
スマホの画面に翔の顔が映っている。反対に自分の顔が翔のスマホの画面にどんな風に映っているのか気になって、気恥ずかしさを隠すように前髪をいじってしまう。
『愛理さん、いまどこに居るの?』
「翔くんの部屋に帰って来たところ。実家からは弟に車で送ってもらったから大丈夫だよ」
愛理は、実家で父と母に離婚の意思を伝えたこと、帰りの車で弟も頑張っているのを知ったこと、そして、自分がひとりじゃないと改めて思ったことを言葉を紡ぐようにして、翔に伝える。
「翔くんが、助けてくれたおかげで一歩進めたような気がする」
『愛理さんの後押しが出来たなら良かった。そう言ってもらえて嬉しいよ』
手の中にある小さな画面の中で、柔らかく微笑む翔がいた。
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