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「翔くん、ごめんね。私が部屋を借りちゃっているから、不便だよね」    今日、待ち合わせをしたのは、翔が実家暮らしで、足りなくなった仕事のための本や服を取りに来たからだ。部屋に着くと翔は荷造りを始めた。   「たいした手間でもないし、気にしないで。それより、弁護士さん、何て言っていたの?」  棚から本を取り出し、手を動かしながら愛理に話しかける。愛理はキッチンでお茶を入れていてカウンター越しに翔の方へ顔を向けた。 「しっかりとした不貞の証拠があるから、たとえ裁判までもつれ込んだにしても離婚は出来るって、でも、財産分与とか慰謝料の話になると、弁護士の先生はしっかり取れるって言うけど、請求したら……いけないような気がして」 「そんなことを言わないで、慰謝料はもらえばいいよ。愛理さんは、兄キに尽くしてきたのにそれを裏切ったのは兄キなんだから」  愛理がキッチンからやって来て、ローテーブルの上に不揃いのマグカップが2つ並ぶ。 「でも……。私に慰謝料をもらう資格なんてないよ」  福岡で北川と過ごした事を後悔するつもりはない愛理だったが、自分のことを棚に上げて、慰謝料を請求するのは後ろめたさがあった。  福岡のことを引きずる愛理の様子を見て、翔は困ったように眉尻を下げる。 「愛理さん。兄キと暮らしていたマンションから出るんでしょう? 新しいところを借りるにしても、結構出費がかさむし、引っ越したら引っ越したで、家具や家電をそろえれば、あっという間に100万ぐらいなくなっちゃうんだよ。もらえるものは、もらっとけばいいんだよ。新しい生活を始めなければならない迷惑料だと思ってさ」
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