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自分のマンションにある、お気に入りの家具を思い浮かべた愛理は、細く息を吐き出した。淳と美穂が抱き合った、あの家具を新居で使おうとは到底思えない。新しい暮らしを始めるなら全部買い替える必要がある。
気持ちを落ち着けるようにマグカップを手に取ると仄かな温かみを感じホッとした。
「迷惑料……そうだね。きれいごとだけじゃ済まないんだよね。弁護士の先生に相談してみる。最低でも相手からは迷惑料はもらわないと。あとは新しいマンションも早く探さななきゃ、翔くんにいつまでも迷惑かけられないし」
「別に急がなくても愛理さんのペースでかまわないよ。急いで探してセキュリティが甘いところだと危ないから」
「はあ、セキュリティか……。ひとり暮らしだもんね。家賃と通勤時間との兼ね合いもあるし、大変」
愛理はそう言いながら、マグカップに描かれているうさぎのゆるキャラを無意識に撫でている。
それに気づいた翔は目を細めた。
「いっぺんに何もかも片付けようとすると、疲れて無理が出るからひとつずつ片付ければいいよ」
「うん、ありがとう」
──甘えることに慣れていなくて、何もかも自分でやらなければいけないと思い込んでいた。けれど、まわりの人に「助けて」と言っていいと教えてもらい、少しずつだけど前に進んでいる。
自分のペースでいいと言葉をかけてくれてる、翔の存在に癒されている。
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