ありふれたぴかぴかの石ころ

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「あれ?あいつ同じ二組にいるんだな」 中学二年の始業式の日、桜の花びらはあたたかな風とともにはらはらと舞い上がり、ひとりつぶやく俺の肩にふわりと乗った。 俺の名は三原佑(みはらたすく)。 物心ついた時には、歌手になると決めていた。 小学生になったのと同時に、大人から子どもまで所属できる『風の鳥合唱団』に入った。 最初は大勢の前で歌うのが恥ずかしいという気持ちもあったけど、いつの頃からか、歌うのが心地よいのですっかり夢中になっていた。 そんな中で、島中恭平(しまなかきょうへい)とは数少ない男子の団員だったし気も合った。 恭平はふてぶてしくていい加減なのに、いざ歌い出せば誰もが動きを止め、口をぽかんと開けたまま聴き入ってしまう。 人を惹きつける声と表現力は別格だった。 それなのに中学入学と同時に変声期だという理由であっさりとやめてしまった。 顔を合わせる機会は全くなくなっていたが、会えばまたうまくやれるだろう。 合唱は無理でも二人で歌うことはできないだろうか。 「おーい佑!同じクラスだなあ、うわあ、騒がしくなりそうだな!」 声をかけてきたのは小学生の時に仲のよかった古森琢真(こもりたくま)だった。 「失礼だな!俺までモテなくなるからくっつくな!」 「ほれほれ、自分だけモテようなんて許しませんよ」 お調子者でぽっちゃりな琢真はぐいぐいと寄ってくる。 実に暑苦しい。 「あ、そうだ琢真!おまえ一年の時恭平とクラス一緒だったよなあ。あいつも誘お……」 言いかけたとたん、琢真の顔色が変わった。 辺りをうかがうように見回して、講堂の裏へと俺を引っ張りこんだ。 「それやばい。今年沢江(さわえ)も同じクラスだからさ。そんなの聞かれたらおまえもやられるぞ!」 「沢江和矢(かずや)?やられるって何を」 沢江は頭がよくて面倒見のいいクラスのまとめ役だった。 聞き返しても、琢真は首を横に振るだけだ。 俺は琢真に詰め寄る。 「何があったんだよ?」 63f0be40-d930-4b70-a82b-e6247e8b8144
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