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「沢江が恭平をいじめてんのさ」
俺は頭を殴られた気がした。
「何だってぇ?」
沢江は誰かがいじめられたらかばうくらい正義感が強かったし、恭平は何を言われてもこたえないような飄々とした性格だった。
「どうして……。だいたい、沢江って木根を受験しただろ?」
木根学園は県で一番、全国でも指折りの進学校だ。
「……入学してあまり経たないうちに病気で入院したって聞いた。それ以上のいきさつは知らない。とにかく一年の後半に転校してきてさ」
琢真は眉をひそめた。
「沢江は恭平をいない人間みたいに扱うくせに、耳に入るように悪口を言う。
周りにわからないように暴力を振るう。恭平とちょっとでも話したり構ったりすればそいつも同じ目に遭うから……みんな」
「琢真、おまえもやったのか?」
俺の声はものすごく冷たく聞こえるだろうと思った。
琢真は下を向いて唇を噛んだ。
「そうだね……おれさ、怖くて何も言えなかった。でも、担任には伝えたんだ……」
嫌な予感がした。
今でも何も変わっていないとしたら。
「ばれてかえってひどくなったとか?」
「もっと悪いんだ。先生は恭平からは何も聞いてないって。ちゃんと話をしないし、態度がよくないのは恭平の方だって」
「何だよそれ!」
「おれだってそう思ってあれはいじめですって言ったよ。でも先生は笑って取り合ってくれなかった」
そんな話があるだろうか。
「ごめん、おれもう行くから」
琢真は悲しそうに去っていった。
思いがけないことになった。
でも、俺の気持ちは変わっていない。
二年二組のドアを乱暴に開けた。
沢江は何人かに囲まれて楽しそうに話をしている。
誰からも大きく離れて恭平は窓の外を見ていた。
沢江は時折恭平を見ながら声をひそめたり、はっきりとわかるように顔をゆがめて指をさす。
わざと傷つけるやり方だ。
それに構わず、俺は恭平に声をかけた。
「よお、久しぶり!」
恭平はゆっくりとこちらをにらんだ。
怖い目つきに俺はひるんだが、名前を呼んだ。
「なあ、恭平」
「うるせぇ、話しかけるな」
かつての歌声とはほど遠いドスの効いた一声に、俺は今度こそ黙りこんでしまった。
沢江と取り巻きたちの嫌な視線がまとわりつく。
ハードな一年になる、と思った。
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