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虹川さんが招き入れたのは恭平だった。
渡した紙切れには、俺の連絡先と、いつでもいいからまた一緒に歌いたいと書いただけ。
まさか今日ここで会えるとは思ってもいなかった。
「佑!あんな言い方してごめんな!学校じゃおまえに迷惑がかかるからさ。おまえんちに電話したらおばちゃんがここ教えてくれたよ。おばちゃん相変わらずだな、個人情報とかどうなってんだよ。おかげで虹川さんにも会えたけど」
恭平は笑いながら俺の肩を叩いた。
小学生の時と変わらない、図太くて人懐こい笑顔。
「よく来てくれたね、久しぶり、恭平。学校での話は佑から聞いているよ」
虹川さんの声は柔らかくて人をホッとさせる。
恭平は俺をまたにらんだけれど、学校で見せたような荒んだ様子ではなかった。
「あと二年やそこらなんだ。我慢すればいいと思ってた。ただ、あいつは気に入らないやつを転校するか登校できなくなるまで追い詰めるんだよ。佑のアホ。何で関わった」
「関わらずにはいられないよ。あんなこと許せない」
「おまえ相変わらずだなあ。それがわかっただけでもよかったよ。でも最悪。あれで千尋ちゃんまで危なくなったぞ」
俺は頭を抱えてしゃがみこんだ。
「私はいつでも君たち二人の味方になろう。小さい頃からの二人を知っているからね。聞いている限り、その沢江君はエスカレートする一方だろう。先生方があてにならないなら、公の外部に働きかけて圧力をかけてもらう方法もある」
虹川さんの顔がだんだん怖くなる。
恭平が慌てて口を開いた。
「虹川さんの気持ち、僕すごく嬉しいです。でも、家族には心配をかけたくない。それに多分沢江がああなった理由、何となくわかってます。自分でどうにかします。それでもだめなら頼ろうと思います」
「恭平、何か知ってるのか?」
恭平はうーんとうなって天井を見上げた。
「誰にも言うなよ。うちの兄貴さ、木根に通ってる。普通は他の学年の生徒のことなんて耳に入ってくることはないらしいんだけどさ。沢江の時は相当ひどかったらしい。身体壊して入院するまでいじめで追いこまれたって話、兄貴から聞いたんだよ」
「恭平は何も悪くないじゃないか!」
「もちろんそうだよ。兄貴から僕が色々吹きこまれてる、とかさ。あいつ勝手に思いこんで疑ってるんだ。話し合いにもならないから放っておいたんだけど、これ以上誰も泣いてほしくない」
「考えがあるのか?」
「いや、ない。でも久しぶりに佑と歌いたいな。そのつもりで僕来たんだけど」
何も考えていなかった。
恭平は全然変わっていない。
自分のことを僕と言うのも、強面に全く合っていなくて面白いから黙っておこう。
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