ありふれたぴかぴかの石ころ

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「三組目のアーティストは、エルツの二人です!」 落ち着いて入りなさいという志田さんの要望に応えようとした結果、抗争に出かけるヤンキーみたいにのしのし歩く恭平に一抹の不安を覚えた。 エルツというのはドイツ語で鉱石の意味で、志田さんがつけてくれた名前だ。 俺は気恥ずかしいので恭平と佑でいいと思ったし、恭平はその時食べていたパ二パニピーチ味にしようと言い出したので、志田さんが独断で決めた。 終わった、と俺は思った。 俺たちの前の二組は俺でも知ってるくらいのプロ歌手だったのに、いい評価ではなかった。 審査員は、本選まで行っても合格者をほとんど出さないことで知られている三人だった。 志田さんが選んでくれた服が制服よりも悪く見えるせいだろうか。 俺たちを見たとたん明らかに厳しい顔で、心が折れそうになった。 「第一印象で失格にできるならしてるんだけど。名前を教えてくれる?」 審査員長の加納さんには初めから否定されている。 「恭平。こいつは佑」 全く動じない恭平がさっさと俺の分まで自己紹介してくれたが、その目つきの凶悪さに、もう一度終わったと確信した。 恭平はマイペースに歌い出す動作に入った。 アカペラの『ふるさと』。 一番は俺がメロディを歌う。 歌い出したとたんに会場の空気も、審査員の表情も変わったので上等だと思った。 志田さんが大胆に編曲してくれた二番と三番は、一瞬ふるさととは思えないような作りだ。 お互いがメロディ、ハーモニー、ベース、ボイパと目まぐるしく入れ替わる。 このひと月の間、飯を食べながら寝てしまうくらいに練習を重ねた。 歌い終った時に審査員も観客も一瞬シーンとなったので心配になったが、次の瞬間に頭が揺さぶられるような拍手が降ってきた。 「やられたね。次に行こう」 加納さんの一言で、俺たちは翌週の本選に進めることになった。 a2e181da-2fc0-4dd6-8967-12f71d4dc819
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