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Act.1
数十体の小鬼と十体近い食人鬼が転がっている。小鬼と食人鬼たちは、黒焦げだったり、切り裂かれて内臓がはみ出していたりと、かなり悲惨な状況だ。
こんな阿鼻叫喚の中に、一人の美少女と一匹の柴犬が立っている。いや、少女は立っているが柴犬は立っているのではない、宙に浮いているのだ。つまり普通の犬ではない。
二人は一眼鬼と対峙していた。一眼鬼は食人鬼よりも力も強いし頭も良い、この一眼鬼が魔物たちのボスなのだろう。
「さてと、やっとメインディッシュね。デザートはもういらないわ」
美少女の魔術師、リアーナが言った。口元には余裕の笑みを浮かべている。もうお気付きだろうが、この阿鼻叫喚地獄は彼女がもたらした。
「ヘッへッへ!」
「ホントにウリエルは食いしん坊なんだから。どう見たって美味しくなさそうよ?」
柴犬タイプの使い魔ウリエルは一眼鬼も食べると言った。見た目によらず大食いだ。
「ガウッ、ガウガウガウ!」
あぁ、言われんでもわかっとる。その姿は世を忍ぶ仮の姿なんだろ? まったく、柴犬のクセに……
「ウゥ~」
それもわかってる、お前は正確には柴犬じゃない、読者がイメージしやすい言葉を選んだんだ。
「グルルル!」
「ちょっとウリエル、ナニ独ごと言ってるの?」
「ヘッ、へッへッへッ、キュイ」
「神さまとお話ししてた? また?」
え~、私は正確には神ではない。似たようなものだが、私は『観察者』だ。この世界を創造したわけでもないし、誰かの願いを叶えたりもしない。そもそも私はあくまで『観察』するだけで、この世界のものに干渉は出来ないし、この世界のものも私に干渉することはできない、はずなのだ……
にも関わらず、この柴犬もどきは何故か私の声が聞こえるらしい。創造主のミスだろう。
「ガウ!」
わかったからそう怒るな、お前の主が心配しているぞ。
「へッ?」
「ちょっとウリエル、本当に大丈夫? 目の前に一眼鬼がいるのよ」
その一眼鬼も手下を全滅させられて、警戒して襲ってこない。だが逃げないところを見ると、まだ諦めてはいないのだ。
「へッへッキュイ!」
「本気を出す? 大丈夫なの?」
「キュ~イ」
「わかったわ。じゃあ……」
やる気を見せる使い魔の気持ちを汲み取り、リアーナはウリエルの首輪を外す。ウリエルの身体から夥しい魔力が溢れ出した。
この状況に危機感が増したのだろう、一眼鬼が先手必勝とばかりに巨大な棍棒を構えて突進し、渾身の力を込めて振り下ろす。棍棒は魔術師と使い魔を叩き潰した、かのように見えたが、ウリエルの魔力に触れた途端に粉々に砕け散ってしまった。
さすがの一眼鬼もこの状況に驚き仰け反る。次の瞬間、巨大化したウリエルが一眼鬼の首に食らい付く。
あー、この後の描写がR指定になりそうなので、オブラートに包んで話すと、ウリエルは一眼鬼の首をパックンし、ハミハミして美味しそうに食べた。残った身体のほうは、首が付いていたところからドバドバとグレープジュース色の液体が溢れ出て、動かなくなったとさ。めでたしめでたし。
「頭は良いほうだけど、それでも一眼鬼が食人鬼や小鬼を手下にするなんて珍しいわね……」
一眼鬼は群れることがあまりなく、稀に群れでいても一眼鬼同士の場合がほとんどだ。
「ガル?」
ウリエルの耳が何かの音を捕らえた。
「どうしたの?」
「ガルルル!」
ウリエルが駆け出し、リアーナは慌てて後を追う。
「何がいるのッ?」
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