【3】

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 生まれた子供に罪がないことぐらい、本当は誰もが知っている。ただ受け入れられない現実から逃避するためには憎む対象が必要だったんだ。ルナ・アルファ・テイルは生まれたときからその対象にされ、今まで育ってきた。茨の道を歩んだ彼女が薔薇になったのは、どれだけ高貴な存在でも、周りに人が大勢いたとしても、どこにも居場所がなかったからだろう。  自分を守るために棘を作り出したのならば、彼女が幸せな人生を歩んでいたらどんな花に例えられたのだろうか。いや、彼女が薔薇でなければ、俺の目に留まることもなかった。輪廻転生しても薔薇であって欲しい。そして、後世は汚れなき綺麗な手でその薔薇の棘を握り締める。誰にも触れられない薔薇に、俺だけが触るんだ。 「知っていたわ。王女様は本当にエレナ王妃様に瓜二つだった。歪んだ足元でも気高く立ち振る舞い、温かな心を持った無邪気な方だった。けれど、私たち大人が王女様を心なき人にしてしまったわ。でも、仕方がなかった。お慕いしていたエレナ王妃様が亡くなって、悲しむ間もなく国王陛下は寵愛していた第三王妃を第一王妃の座に据えた。まるで邪魔者がいなくなったとでも言いたげにね。一国の王を恨むより、エレナ王妃様の恨みを買った、私の身近にいた幼き王女を恨む方が簡単だったから」  最後まで言い訳を零していた侍女は、その日、自らの手でこの世を去った。ルナ・アルファ・テイルは数年前に亡くなったその侍女が、どのような経緯で自殺したのかも知らぬまま、花畑で一人無邪気に踊っていた。彼女は一人のときだけ素を見せる。周りに人がいると相変わらず世間の噂通り無表情で鋭い目をしているが、こうして一人でいるときは年相応の可愛らしさに魅せられる。自分だけが彼女の素を知っている優越感が更に俺を夢中にさせた。
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