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3年目
君と手を繋ぐ夢を見た。
目覚めた朝は苦しかった。
永遠に叶わない夢だと気付いていたから。
卒業が近づいていた。
少しずつ。
1秒1秒。
夏。
僕は怖いもの知らずになる。
君に想いを伝えた。
ありがとうと言う君。
チャイムが鳴り、答えは聞けなかった。
緊張した笑顔で君は「後で」と言う。
もう分かっている。
でも期待してしまうのは君が優しいから。
放課後、君は友達と楽しそうに話していた。
僕は一人帰る。
こんなに不安な帰り道は初めてだった。
夜。
着信音が鳴った。
いつもは知らない番号からきても出ないのに、僕はスッと電話に出た。
君の声が聞こえる。
電話での声は少し違った。
それも好きな声だった。
だけど君の声は困っていた。
君はもう一度「ありがとう」と言う。
その後に謝った。
僕の想いはやはり届かなかった。
君は何も悪くないと伝えた。
僕が悪いんだ。
君を傷つけたくない。
君を守る言葉を探した。
君も僕を傷付けないように必死だった。
君は今どんな顔しているだろう。
電話を切る僕の手は震えていた。
今夜は。
夢を見たい。
幸せな夢。
朝、悲しくなってもいいから。
夢の中では笑顔でいたい。
そのまま、秋も冬も越え、僕は君を忘れられないまま卒業を迎えた。
5年後。
君の歌声は多くの人を癒した。
僕の心も。
隣にいた君。
出逢った日に戻りたい。
もう少しだけ君の隣にいたかった。
君の才能を見つめていたかった。
近くで。
でも君は遠い。
会いたい。
夢の中だけでもいいから。
困った声や、僕に向けた、僕にとって苦しい君の優しさではなく。
僕が恋した、あの笑顔だけに会いたい。
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