親ガチャ

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桜が咲いているなあ、とボンヤリ校舎の窓から眺めている。陽キャであれば、4月は出会いの季節でテンションが上がったりもするんだろうけど、陰キャの俺は花粉症も相まって憂鬱な気分。 高校3年生にもなると大学進学か就職かを考えなくてはならない。今の少子化時代、三流私立大学であれば定員割れで誰でも入学できる。まあ、それからの頑張り次第だとは思うが、俺の頭だと進学であろうと就職であろうと明るい未来は待っていないだろう。 金持ちの家に産まれたかった……。 何か1つ特別な能力……。例えば、スポーツの何かが優れているとか、知能指数が凄いだとか、イケメンだとか……。 俺には何も無い。全てが中の下。それなら、せめて金持ちの親だったらと考えてしまう。 真面目な父親に明るい性格の母親。父さんは周りの友達と比べると1回り以上歳上で、50歳の時に俺が産まれたという事もあって、人一倍可愛がって育ててくれたらしい。既に仕事を退職し、年金暮らしだ。 今までは両親に何の不満も無かったのに、自分が努力せずに生きてきた事を棚に上げ、将来の不安から両親に責任を転嫁していたのだった。 「……藤、斎藤!」 ボーッとし過ぎて反応が遅れた。振り向くと、友人の佐藤が怪訝そうな顔で見ていた。佐藤は笑いながら言う。 「将来が不安で意識が無くなりそうなのか?」 図星。佐藤は冗談で言ったのだろうが、的を射すぎていて怖い。 「ああ、宝くじでも当たってくれないかな」 その時、佐藤の目がキラリと光った。俺がテキトーに言った宝くじの話で何か閃いたようだ。佐藤は近付き耳打ちする。 「親ガチャ……興味無いか?」 親ガチャ? たまに皆が冗談で言うヤツだが、興味も何もどういう事なのか意味が分からない。 「親ガチャが出来る人がいるって噂なんだよ」 「出来る訳無いだろ」 「まあ、俺もそう思うんだけど、先輩の知り合いの知り合いが実際に出来たって言うんだよ」 「先輩の知り合いの知り合いって、ただの他人じゃないか」 「まあまあ。どうだ? 試してみないか?」 「嘘に決まっているから試しても良いけど、金取られたりするんじゃないだろうな?」 「1万円らしい」 「誰が1万円も払ってするんだよ!」 「俺も半分出すから」 何故、佐藤がそんなに前のめりなのか分からないが、やたらと俺に親ガチャを薦めてくる。信用しているから自分がするのは嫌だという事だろうか。 例えば、心霊スポット等の場所に怖いもの見たさで行ってみたい気持ちはあるが、自分が行くのは怖いので友人に行ってもらおうという感覚なのだろう。 その後、取り敢えず、その親ガチャが可能だという場所だけを聞き、何度も断ると佐藤も諦めたのか自分の席に戻った。 教室に担任の先生が入ってきて、今日、抜き打ちの実力テストが行われると告げた。まだ4月なのにミンミンゼミが地上に出てきたのかと思うぐらい教室が騒がしくなり、先生は黙って口元に右手人差し指を立てた。それでも小さめにぶつくさと文句を言う人の声が聞こえてくる。皆のリアクションとは対照的に、俺は冷静だった。テストがあると聞けば、勉強してきたのに、と思う人が騒いでいるんだろう。俺はテストがあると分かっても勉強しないんだから、抜き打ちだろうと事前に教えてもらおうと一緒だ。どっちにしろ良くない結果なのだからジタバタしても意味が無い。
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