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放課後……
俺は肩を落としながら下校している。何度も何度も溜め息をつきながら頭痛を我慢する。テストが全く出来なかった。自分でもバカだと分かっていたが、ここまで出来ないとは……。明日からは土日で連休だと言うのに、今日のテストの結果を思うと全く楽しめそうにない。
家に着き、母親から「学校生活は順調?」と聞かれた。俺は「ああ」とだけ答えて自分の部屋に入った。その時、頭の中の何かの線が1本切れた感覚がした。母親からすれば何気無いコミュニケーションだったのだろう。だが、タイミングの悪さからか、無性に腹が立った。
翌日……
どんよりと曇った空。昼前だというのに4月とは思えない寒さを感じながら、ズボンのポケットに両手を入れて小刻みに震えながら電車を待つ。スマホを確認すると11時。朝より寒い気がする。
ようやく来たガラガラの電車に乗り席に座る。身体が温まり小さな幸せを感じながらも、頭の中では先程の事を思い出し、改めて失敗したと感じていた。
親ガチャ……。朝の早い時間から、わざわざ知らない土地へ出向き、1万円を騙し取られる。いや、まだ騙されたと決定した訳では無いが、まず騙されたと思う。
1時間程前、古びた事務所に居た30代ぐらいに見える山本と名乗る男性に1万円を払い、親ガチャを行ってもらった。山本は、その辺のショッピングモールで見るようなガチャガチャの機械からカプセルを取り出し、何やら頷いた後、俺に目を瞑るよう促し、しばらくすると起こされ「終了です。ありがとうございました」と言った。何も変化が無いと感じた俺が「終わりですか?」と確認すると「はい、家に帰れば分かると思います」とだけ告げられたのだ。
家に帰れば何が分かると言うのだろうか? 騙されたに決まっている。腹が立つと言うより、自分のバカさ加減に呆れている。まあ、元々信用しきっていた訳でも無いし、何かのキッカケになるかなという程度の気持ちだった。
詐欺に遭う時というのは精神的に弱っている時なんだなあと泣く泣く納得した。
自宅に着き、今日の事は諦めて切り替えようと、玄関のドアを開け、「ただいま!」と無理して明るく大きな声を出した。
「お帰り」と返事がきたが、母さんの声では無かったので友達のおばさんでも来ているのかとリビングに入った。テレビを見ているおばさんは俺の知らない人のようだ。だが普通、こっちを向いて会釈ぐらいする筈なのに、俺を無視するかのようにテレビを見たままだ。中々態度のデカいおばさんだなと思いながら「こんにちは」と挨拶した。おばさんは俺の方を見て怪訝そうな顔をし、「ん?」と言った。聞こえなかったのかと思い、俺が再び「こんにちは」と言って軽く頭を下げると、おばさんは「こんにちは」と変な笑みを浮かべて返した。変わった人だなと思いながら母さんは何処だろうと、キッチンや他の部屋を探すが見当たらない。俺は階段から2階へ「母さん?!」と大声を張り上げると、リビングの方から「何?!」と先程のおばさんの声がした。
全身の血の気が引く。俺は全てでは無いが半分程度を理解したと感じた。これは親ガチャの影響だという事を……。あの胡散臭い山本とかいう男の能力は本物だったという事だ。勝手に親ガチャというのは俺がどこか他の家の子になると考えていたが、俺の親が他の家の親になり、誰かの親が俺の親になったという事なのだろうか?
昼食の時間になり、2階から知らないおじさんが降りてきた。俺を見ても特にリアクションは無い。彼が新しい父親なのだろう。
俺は知らないおじさんとおばさんとパスタを食べる事になった。俺からすれば違和感だらけだが気にせず食事をする。まあ、事情を知らずに他人が家に入ってきて食卓を囲む事になれば耐えられないだろうが、親ガチャの結果だと分かれば受け入れられる。
新しい父さんと母さんは、初めて見る筈の俺に対して、何のリアクションも無い。俺の方は他人だと理解しているのに、親側からすれば自分の子として認識されるのが、この親ガチャの仕様なのだろうか?
翌週、親ガチャの内容を確認する為、もう1度山本と名乗る男に会いに行ったのだが、その事務所は既にもぬけの殻だった。
その後、俺は他人である2人と暮らしていく事になった。この事を誰にも打ち明けずに……。
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