第2話 人権擁護課

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第2話 人権擁護課

 それから10年後。私は38歳になり、貧困家庭出身の美容師と結婚して一児と家庭を授かっていた。  ある日、市民部の部長から呼び出しを受けた私は、事務作業を一時中断して部長室を訪れた。 「……そういう訳で、君を新たに人権擁護課の課長として任命したい。引き受けてくれるか」 「大変光栄に存じますが、私はまだ若輩者です。より相応しい職員もいるのではないでしょうか」  来年度から市民部に新設されることになった「人権擁護課」はインターネット上のものも含めて社会のあらゆるハラスメントや人権侵害の事案を取り扱う部署であり、現在は市民課の副主幹を務めている私は数階級を飛ばして課長に昇進すると告げられた。 「人権擁護課は、何せ人権を守るための組織だからね。過去にハラスメントや人権侵害を行っていた可能性がある人物はなるべく採用したくないんだよ。その点、君は人生でとても苦労しているし、施設ではいじめられっ子だったと聞いているからね。……おっと、いじめられっ子という言葉はよくないな。人権侵害被害者と言い換えよう」  この10年間で世界にはキャンセルカルチャーが広く普及し、有名政治家やタレント、時には学者までもが過去の問題行為でその名誉を剥奪されることが一般的になっていた。  キャンセルカルチャーの一般化によりかつて「いじめ」と呼ばれた児童間での暴力やハラスメントは激減し、マスメディアは人間社会がより人に優しく進化したと現状を肯定していた。 「そのような理由で大役を任されるのは恐縮ですが……喜んで引き受けさせて頂きます」 「ありがとう。人権擁護課は人権侵害の被害児童の駆け込み寺として機能するし、加害児童の永久記録保存にも中心的な役割を果たすから、君の働きには期待しているよ」  部長の激励に頭を下げて部長室を出た私は、これで妻や息子により良い生活を送らせることができると喜びを感じた。
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