観覧車の存在意義など、アレしかないだろう

2/4
前へ
/130ページ
次へ
 水族館でデートをしたあと、二人で観覧車に乗った。スタッフからは僕らはごく普通のカップルに見えていたと思う。 「観覧車、めっちゃ久々に乗りました。」  紫色に染まっていく空を、鳴海は手すりに体を預けて食い入るように見ている。 「僕も。久しぶりに乗ったよ。」 「え、ホンマに?そっちゅうデートで来てるんじゃないんですか。」  と、ちょっと意地悪な笑みで言われて僕は思わず顔をしかめた。 「僕ってそんな風に見えてたの?」 「いいえ別に。あの、拓磨さん。」  不意に鳴海の声のトーンが少しだけ低くなり、遠くの景色を見つめる目は僅かに憂いを帯びていた。  これは何かを言われるな、と思った僕は手すりを握る手に力を籠める。 「夜のデートって正直あんまり乗り気じゃなかったんです。」  花火の時も、今回も・・? 「どうして。」 「・・ちょっとだけ、髭生えてくるんで。」  少し間が空いた後、僕らの目が合う。鳴海が先にぷっと笑って、つられて僕も笑った。
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加