オトナな彼女

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 そりゃ仕事ならイライラもするし上司のプレッシャーもあるし、思わず「それは仕方ないだろ」という言葉が喉元まで出かかって僕は辛うじて呑み込む。 「そうかな。」 「前からちょっと気になっててんけど・・・拓はすぐ顔に出る方やから気ぃ付けた方が良いと思う。」  ぴきっ  慰めの言葉を期待していたところに思わぬダメ出しを喰らって、僕の眉間にはますます深い溝が刻まれていた。 「・・ごめん、学生のウチがこんなん言うんは差し出がましいかもやけどね。」 「・・そっか、まぁ、気をつけるよ。」  努めて冷静を装って言おうとはしているけど全然出来てない。こういうところなんだな・・・とつくづく思った。社会人なら自分の機嫌は自分で取らないといけないのに、僕の顏がみるみる不機嫌になっていったのを鳴海も当然察していただろう。 「まぁ・・仕事に一所懸命なのはすごくいい事やと思うし。」  一所懸命やったところで、後輩から慕われないようじゃダメなんだろうけどっ・・・と自虐的なメッセージが頭の中に溢れていく。 「別に・・そんなフォローしなくてもいいけど?」  つい言ってしまった。      一瞬の気まずい沈黙があって、こういう時に沈黙を破るのはいつも鳴海の役目だ。 「そろそろ出よか?」  僕が半分ほど飲み残したアイスコーヒーはすっかり氷が溶けて生ぬるくなっていた。
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