オトナな彼女

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 暗いスタジオに入って映画が始まってしまえば会話を続ける必要もなくなるけど、そこに至るまでの通路で何も話す話題がなくてひたすら気まずい。  この空気をどうにかしなくてはと思うのに、意に反して両足はずんずんと床を蹴って足早に歩いてしまう。こういう空気になった時、それを取り持ってくれるのはいつも鳴海の方で、僕はついそれに期待してしまう。  今日の映画は鳴海がチケットをとってくれて、二人で楽しみにしていたはずなのに。 「拓っ」 —なんだよっ  後ろから名前を呼ばれて、でも振り返る気になれない。僕って大人げないとは思う。 「拓っ!」  もう一度強く呼ばれて足を止める。映画館の中、駆け足で僕を追い越した鳴海がA4のチラシを僕の前に掲げて見せた。 「映画はキャンセルして、これ行かへん?」  それは映画のチラシではなかった。 「拓、前から行ってみたいって言ってたやんか。今から電車飛び乗ったらいけるやろ。」  まじで行くのかよ、それ。 「明日なんか予定あんの?」 「別に・・」 「ほな、いこ。」  鳴海の手に引かれ、僕らは映画館を出た。  やはりいつだって気まずいムードを作るのは僕で、それを破るのは鳴海の方だった。
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