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電車と本数の少ないバスを乗り継ぎ、たどり着いたのは千葉県の山奥にある温泉旅館。時刻は既に夕方の四時半だった。思いのほか立派な建物に宿泊料はいくらだろうと心許ない財布の中身を案じたが、空から降り注ぐような紅葉に二人とも目を奪われそんな杞憂が吹き飛んでしまう。
「何とかついたな。弾丸スケジュールだったけど。」
慣れない地図を見ながらなんとか着くことが出来た安堵感で、昼間気まずくなった事はどうでもよくなってきていた。予定変更は正解だった。
「ていうか、僕が温泉行きたいって言ってたの、よく覚えてたな。」
「若いのにお爺ちゃんみたいな趣味してんなーって思っててん。」
「うっせぇよ。」
そんなやりとりをしながら、紅葉の写真を携帯のカメラに収めるアングルを探して辺りを見渡していると、三歳ぐらいの男の子が座り込んで泣いている姿が目に入った。
「どうしたんだろう、あの子」
「親御さんとはぐれたんかな。」
鳴海がその子の元へ駆け寄り、しゃがんで話しかけた。
「ボク、どないしたん。おかあちゃんとはぐれたんか?」
子供は泣き腫らした顔で何も答えない。
「きっと宿泊客の子供さんだろう。受付に連れていって旅館のスタッフに聞いてみよう。」
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