レモンピール 【僕と彼の苦味を感じるほどに甘い恋と、本気の失恋と、その後の物語】

オトナな彼女

　僕が抱き上げると男の子は若干落ち着きを取り戻し、不思議そうに僕ら二人の顔を交互に見る。

「拓、子供あやすん上手いやん。」

「そうかな。とりあえず連れて行こう。」

　その時、旅館から出てきたスタッフが僕らの姿を目にとめて、「ようこそお越し頂きました。ご予約頂いていたお客様ですよね。」と柔らかい物腰でこちらへ声をかけた。

「え、あ、はい。あの・・・この子なんですけど—」

「いやぁ随分可愛い男の子ですねー。ボクはいくつかな？」

　この手の対応に慣れているのだろう。スタッフはあやすような口調で僕に抱かれた男の子に話しかける。僕らを親子連れだと勘違いしたようだ。

「あの、違うんです。この子、親御さんとはぐれちゃったみたいで、ここで泣いてたんですよ。」

「あ、そうなんですか。申し訳ございません。つい勘違いしてしまいまして。」

　僕ら二人は笑って取りなしたが、その時の鳴海の笑みが少しぎこちないような気がした。