初めて会った日の事を、憶えていますか?

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 八時五十五分、ぎりぎり閉店間際の「市川酒店」にたどり着きガラス戸を開けると、いつも店番をしている顔馴染みのお爺さんの姿はなかった。  代わりにしゃがんでお菓子を陳列しているのは、年季の入った酒屋に似つかわしくない若い女の子。色の落ちたジーンズに濃紺のロングTシャツ。素朴で飾らない服装は高校生にも見えた。   ——あれ?誰だっけ、この子  振り返って僕の姿を認めると「いらっしゃいませ」と言う代わりに無言で微笑んでくれ、束ねられた癖のある髪がふわりと揺れる。ほとんど化粧をしていないけど、奇麗な子だと思った。    僕が冷凍庫から一本60円のアイスを二本取り出してレジへ向かうと、その女の子が手を止めてぱたぱたと小走りでやって来てくれる。すっと女性の髪の匂いが鼻をかすめて思わずどきりとした。  
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