高校教師

「祖父母と父が被曝しました」私は答えました。
「先生のお父さんは被曝したの？」
「はい」
「それは苦労人ですね」
「戦争になったら皆苦労します」
「大変でしたね」
「私も教師になる前に八百屋にならなければならなかった」
「お父さんは八百屋さんですか？」
「父は元は教師だった」
「どうして八百屋になったの？」
「父が体の具合が悪くて高校卒業してすぐに大学に進学できなかった」
「それで八百屋で働いた」
「そうだ」
「学費を自分で稼いだとか？」
「生活費を稼いでいました」
「そんなに歳とっているの？」
「はい」
「家族の生活費を稼いで学費も稼いでた？」
「はい」
「家族は仕事をしていなかった？」
「母が仕事をしました」
　私は考えてみると高校の教師になるまで苦労らしきことはしたのだな、と思った。　
　目の前にいる生徒は何も知らないけれど知っていることもあり知識は豊富な子たちだな、と私は思った。
　私は職員室に向かって一人で歩いていた。
　窓から見える木は葉桜になっていて私はそれを見て気分がよくなった。
　職員に入った。