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細い腕
好きな娘がいる。
白くて細い腕、栗色の瞳と癖のある柔らかい髪、そばかす、屈託のない笑顔。
「深沢、起きろー」
「あと5分でいいですから……」
半分寝惚けながら答える彼女を見て、先生もクラスメイトも一様に顔を綻ばせた。
先生、アンタは癒されてる場合じゃないだろ。心の中でそう呟いたが、まあしょうがない。彼女がいるだけで、不思議とその場の空気が和んでしまうのだ。
休憩時間になると、彼女は猫のように気まぐれにこちらにやって来て、とりとめもない話をする。
「水泳の授業の後って、なんであんなに眠くなるんだろうね?」
「アンタだけだろ。ちゃんと授業聞けよ」
そう言いながら軽く頭を小突くと、「うわぁ! 絶対ヒビ入った!」と、わざとらしく痛がった。そういう子供っぽいところも、可愛らしくて堪らない。
「何でアイツばっかり……」と、男どもが恨めしそうに睨んでくることもあるが、知ったことか。彼女が好きなら、自分から声を掛ければいいだけのことだ。
そんな勇気も無いくせに、一丁前に嫉妬だけはする。質の悪い奴らだ。
「なっちゃん、D組の人が呼んでるよ」
クラスメイトが彼女の肩を叩いた。ちらりと教室の入口を見やると、落ち着かない様子の男が立っている。恐らく、また告白だろう。今年に入ってからもう何度目だろうか。
彼女はごめんね、と言い残し、小走りで去って行った。仄かに塩素の残り香がする。香水を付けないのも、彼女の好きなところの一つだ。
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