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伊吹先輩から係員の席へと連行される僕。
僕は、この伊吹先輩の交替要員としてこの部署に配属される訳なので、彼女が異動するまでの二~三日の間、ガッツリと仕事の申し継ぎを受けることになる。
伊吹先輩との申し継ぎ時間、それは専門的な用語がバシバシ登場してくるので、付いて行くのは中々大変だった。
「いきなり変なあだ名を付けられちゃいましたよ。」と、申し継ぎの合間に小声で愚痴る僕。
そんな僕に対し、伊吹先輩は
「まぁ…、それでもあの人なりに色々考えた末のあだ名なのよ、多分だけど。」と、溜息と共に言葉を返す。
「例えばさ、『ミーアキャット』だなんてあだ名でも付けられたら、人によってはそれって悪口とも取られかねないでしょ。
だから、『動物』って大きな括りで言うことで、悪口の度合いを軽くしてるんだと思う」
何だよこの伊吹先輩、さっきの僕と狭霧主任とのやり取りをしっかり覚えていたのかよと内心にて突っ込みを入れつつも、その話自体にはそれなりに納得してしまったので、僕はふむふむと頷いてみる。
確かに、あの狭霧主任が自分のデスクから「ちょっと、『ミーアキャット』!」などと僕を呼び付けている場面を想像すると、それはもう凄く殺伐とした感じがしてしまう。
そして、呼び付けられた僕がトコトコと狭霧主任のデスクに向かう様を目の当たりにした周囲の皆さんは、『ミーアキャット』と僕との似ている点を見出して、心の内でクスクスと笑うに違いない。
そういった意味では、『動物』のほうがまだマシなのかもしれない。
でも、『動物』だけじゃアバウト過ぎるし、それはそれで相当に変だ。
そして「丸」って何だよ、「丸」って?
そんな僕の内心の疑問を見透かしたかのように、伊吹先輩は説明を続ける。
「あとね、『動物』だけだと人間成分がゼロだし、何だか投げやりな感じだし、それにほら、悪口感もまだ残ってるから、『丸』を付けることでそれらを解決してるのよ。
『牛若丸』とか『おじゃる丸』とかと同じ感じよ」
と、物憂げな表情を浮かべっつ、狭霧主任を気にするかのようにヒソヒソ声で教えてくれる。
それがさも重大な秘密であるかのような深刻めいた口ぶりで。
この伊吹先輩、深刻そうな口ぶりなんだけども、狭霧主任のあだ名トークに関してはメッチャ饒舌だ。
正直、何か変だ。
深く関わったら何だか面倒臭そうな気がするから、追及するのは敢えて止めておくことにする。
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