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そしてそのまま筆が乗ること数時間。いつも通りの文字数の短編小説が一作品出来上がった。うん、いいね。いつもより早く出来上がったし、あのサイトのおかげかスラスラ進んだ気がする。そうやって浮かれながら自分が書いた小説を頭から読み直していく。詰まることなく読めるのはいい文章が書けている証拠。うん。いい感じ。読み直しも後半に差し掛かった時、あの違和感の芽が、花を咲かせた。
『静かなリビング。彼に別れを告げるわたしの言葉よりも先に、春の風がわたしの唇の上をなぞるようにそっと吹いた。突き放すのはわたしのはずなのに、行かないでと懇願してしまいそうになる。そんなわたしを揶揄うように吹く、吹く、風。止まない窓からの春風はわたしの決意を揺らがせてしまう。嗚呼、きちんと渡さないと。このさよならの手紙を書き上げない限り、わたしは前に進めない。』
そう確かに書いたはず。目を擦り、もう一度最後の文章に目を通す。
目を向けた先から文字が踊る。私が書いた文章は、それらを構成する文字たちは、カタカタと音を立てて居場所と姿を変えていく。
『静かなリビングが笑っているでしょう。彼に別れを告げるわたしの言葉よりも先に、春のカゼがわたしの唇の上を爛れさせタようにそっと吹いたでしょうか。ビルの上から突き放すのはわたし。わたし。わたしの腕ガ。行かないでと懇願してしまいそうになル?そんなわたしを揶揄うように吹く、血飛沫、カゼ。止まらない真っ赤な血潮がわたしヲ導くのです。嗚呼、キチンと渡さなければ、この、このテガミ、を。』
「……っ」
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