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違うのだ。私が思っていた、書いていたラストはこんなのじゃなかった。同じ顔をした人間が少しズレた平行線の上を歩くような、些細だけれどもあからさまな違和感。
こんなラストなんて書いた覚えもないし、内容にだって見覚えがない。第一、今書いているのはただの恋愛小説なのにこんなに人が死ぬラストになるわけがない。おかしい。
ゾッとする背筋を壁にくっつけ、何者かが私を好き勝手できないようにする。怖い映画を見たあとや怖い話を聞いたあと、布団から手足が出ていると怖いのと同じで、がらんどうの背中が嫌に怖かった。
「なに、これ。こんなの私書いてない」
焦ってラストを書き直すも、読み直せば読み直すほどにその文章は同じものに書き変わる。
『止まらない真っ赤な血潮がわたしヲ導くのです。』
何度も何度も試しても変わらなかった。この頃には壁にくっつけた背中がじっとりと汗をかき、すっかり恐怖に濡れていた。
「待って、なんで」
それどころか、もう書きたくないのに、進む指先。描きたくないさらなるラストを描き続けていく。止まらない自分の指先がピアノを弾くように不気味に動く。今、つー、と額から汗が伝った。
「やだ、なにこれなにこれ」
理解の範疇を超えた自分を囲う事象は、さらに大きくなっていく。
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