7人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「女は指先から骨がでるまで原稿用紙に書きなぐる。ガリガリ、ガリガリ、と聞こえてくるその音は心地よいリズムであり欠かせないものでもあった──」
思ってもいない言葉が口から勝手に出てくる。それに合わせるように、机の上に置いておいたメモ用紙を、私の指先がガリガリと何かを書き示すように動いては引っ掻く。徐々に痛くなる指先からは血が出て赤く染まっていた。
「や、だ」
ラストに向けてこのまま書いてしまいましょう。世界の一端を覗いた貴方だからこそ描ける物語があります。あなたにしかできないことなのですから、笑顔で書き続けましょう。全ての物語は──
「やめ、て」
──全ての物語はひとつの理を守るために繋がっています。そしてその指先であなたにしか書けない物語を書きなぐることが祖の示した終わりへと繋がり、書いた者だけが最後に光へと導かれることが出来るのです。
「痛い、痛い痛い痛い、やだ、いだい」
女は原稿用紙に書きなぐる。指先から骨がでるまで。ガリガリ、ガリガリ、と聞こえてくるその音は心地よいリズムであり欠かせないものでもあった。なぜなら、そのリズムは骨から伝う祖の好む音だったから。ガリガリと真っ赤に染まるその指先は、祖の好む色だったから。そう、これを書くことで繋がることができたのですから、これはとても素晴らしいことなのです。けれど残念です、読んだ貴方へと影響を与えられるほどの力をこの女は持っていなかったみたいですね。ああ、残念。
「ラストがおかしいラストがおかしいラストがおかしいラストがおかしい助けて」
しかし、貴方も書く側、のお人のようで。ならばなおのこと「物語」を書く時には隙間から誘わないように、お気をつけて。祖は貴方たちの書く物語が大変お好きなようですから。
最初のコメントを投稿しよう!