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❀13.❁°˖✧
走るゆきは
この日初めて位の大きな目になり
一点を凝視していた
その真剣な? 視線の先には
ゆきは
仔犬たちの鳴き声が聞こえる方向に
ペットショップを 見つけた …
—
「 ね! あそこ 行く!」
「 … ん?」
―
慎には ゆきが
買い物が楽しくて無邪気に喜んで
いる様に見えて
だから
両手に下げた買い物袋をガサガサっ!
と させながら 駆け出した ゆきの
後を追う
―
「 あ! いた!」
―
ゆきは 壁一面 に いっぱい!
透明な 個室に 一匹ずつ
並べられている
仔犬たちの前に駆けより その
たくさん並んでいる仔犬たちの その
中段の 真ん中の ケースの前で
腰をかがめて …
子供の様に
両手と額を その透明な板にあてて
目を細め ウルウルになって いる
慎はその横から顔を出し
覗き込み …
―
「 ん? 柴犬?」
「 う … ん?
このこも きっと
小豆ちゃん!」
「 アズキ?」
「 そ!」
―
ゆきの明るい 大きな そんな ? 声で
店員さんがすぅ~っと! 近寄ってきた
―
「 … こんにちは 」
「 あ!
すみません!
このこ!」
―
ゆきは 興奮した様に すぐ横の慎なん
て目に入らない勢いで 店員さんに喰ら
いつく
―
「 はい! このコは
豆柴より小さな
小豆で
おんなのこです 」
「 やっぱり!
なんですね!」
「 このこ も?
アズキ?
おんなの こ?」
―
慎は ゆきと店員さんとの会話に
いちいち ?になる
―
「 ワタシ 小豆ちゃんと
暮らしていたんです …」
「 そうでしたか …」
—
なにも知らない店員さんのその一言でも
ゆきはあの仔犬を想いだし
—
「 はい …
でも … 早くに
亡くして … 」
—
急にさみしそうな表情に変わってしまっ
たので 店員さんも とっさに そんな
ゆきに気を使い
—
「 早かったんですか?
… そう です ね …
このコたちは普通サイズの
柴ちゃんたちとは 違って
もともと カラダの
弱いコとか が 中に は …
かも … しれません … 」
「 え? そ う ?
なんですか?」
「 はい …
やはり … 小さい
身体 なので
デリケートな コも …
… ですね 」
「 小さいから
弱い こ
だった の …」
 ̄
ゆきは
初めて犬を飼った時だったから
知らない事も多かったのかもしれない
けれど
" そんな事も気づいてあげられ
なくて ”
と ちゃんと育てられなかった
自分を悔いた
—
「 でも …
一緒に過ごした事が
あるのなら … ココでも
逢えて なんて …
小豆たちは数も少ないので
この店にもいつも 居る
わけではない ですし …
きっと このコ と
あなたは ご縁がある
のかも しれませんね 」
—
それは …
ただの セールストークだったのかも
しれないけれど ゆきには あのこが
このこと 遇わせてくれた? 様に
カンジてしまった
—
「 あのこ が …
このこ と ワタシを …」
―
ゆきは ここから動けなくなる
慎は ゆきの後ろから そんな様子を
眺めていたけれど
こんなに動かなくなったゆきが気になり
邪魔をしない様に静かに
横に並んで また仔犬を覗き込み
—
「 … ん?
そんなに
気になるの? 」
「 う ん …
このこ …
ふるえて るの …
ワタシ 抱いて
あげたい な …」
「・・・・」
―
慎は ふと …
ゆきの その 遠くを見る目に
自分の なにかを 重ね …
―
「 スミマセン …
この仔犬 抱っこ
できますか?」
「 はい …」
―
店員さんは ケースの裏に回ると
そっと抱きあげ 慎の前に連れてきた
―
「 きゅ ... ん 」
―
仔犬は急に出されて 少し 寒かった
のか か細い声を出した
―
「 ほんと
ちっさい な …」
―
慎は その小ささに 驚きながらも顔を
近づけ その姿とそえられている店員さ
んの手の大きさ そこへ 大事そうに両
手に下げていた買い物袋を 床に置き
それで
空になった自分の右の掌を近づけ …
左手は …
ゆきを 引き寄せると
並べて …
それぞれを比べて さらに 驚いた
それくらいに
小豆シバは小さい
―
「 はい … このコは
たぶん 成犬になっても
3㎏弱 … くらいです 」
「 え? 体重も
そんなに?
軽いんですか?」
―
慎は 犬には詳しくなく なら 比べる
者も知らないのに? また驚いてみせた
ゆきは 慎の横にへばりついているのに
そんな慎と 店員さんとの会話には入ら
ずに ずっとこの仔犬から目が離せない
それにも気づいた慎は
―
「 このこ 抱いても
いいんです よね?」
―
そんなゆきのために
店員さんに確認し
―
「 どうぞ …」
―
店員さんは 慎の胸へ
仔犬を差し出そうとした時
―
「 ほら! ゆき!」
―
慎は ゆきを自分の前に出させて
—
「 あ! うん!
いい です か?」
—
ゆきは 慎の前に進んで
仔犬に両手を伸ばした
—
「 ぅ … わぁ …」
—
そのゆきの声に
仔犬は驚いたのか
—
「 くぅ~ん …」
—
ゆきに抱かれると
また 仔犬は か細く声を出した
—
「 ぁ? ごめんね?
ワタシ? 手が
冷たかったかな?」
―
ゆきは 自分の胸へ 仔犬をやさしく
ゆっくりと引き寄せ 抱きしめた
その か弱さに
ゆきは また目を細め
まるで 母親の様な そんなやさしい
眼差しになり …
その様子に 店員さんと慎も
やさしい笑みが こぼれ る
―
「 あの …
この仔犬を飼うに は 」
―
… そんなゆきと仔犬を
魅せられたら …
慎は思わず
そう口にしてしまい
―
「 はい 予防接種も
済んでいるので
すぐでも
大丈夫ですよ!」
―
店員さんは明るく声を張る
―
「 … じゃあ
カノジョは この
アズキ? を
飼った事が
あるので 大丈夫だと …
思うし …
貴女が云ったように
ご縁かも しれないので
連れて帰りたいの
ですが …」
「 はい!
では 必要な物を整えて
ご用意いたします!」
「 お願いします … 」
―
ゆきは
仔犬にだけ集中し過ぎていて
慎と店員さんとのやりとりは
目にも耳にも入らずに
ずっと 仔犬を抱いたままで
仔犬しか見ていない
―
「 ゆき? 連れて帰っても
いいんだっ て …」
―
だから …
そんな慎の声で ようやく
この場が分かり
―
「 え? このこ?
一緒に帰る の?」
「 ぁあ …」
―
なんだか …
慎との子が? デキタみたい
に? 単純なゆきは喜んだ
―
「 ね! シン?
パパ だね!」
「 ん? じゃぁ
ゆきがママ か! 」
「… くぅ~ん 」
―
仔犬も返事をする
―
「 あ の …
このこは お外に
出しても大丈夫
なんですか? 」
―
ゆきは 心配事も尋ねた
―
「 … はい このコは
おんなのこ なので …
おとこのこと 違い
カラダが小さいですけど
もう 6か月は
過ぎているので …
お天気の良い日に
そうして 抱っこ
してあげていれば …」
「 そうなんですね!
よかったね!
お外に出れるって!」
―
ゆきは
仔犬が外に出られる事を
自分の事 の 様に
また 喜んで魅せた
―
「 きゅぅ~ん …」
"… あ れ?… で
も … そ な の …”
—
ゆきの声掛けに その可愛らしい
鳴き声を ちゃんと返事をする様に
大きく 答え
小さいのに頑張って この仔犬は顔まで
も ゆきのほうへ上げた のに?
ゆきは …
その健気さ に …
なぜか あの家と あのこ の …
ゆきに向かって 懸命に駆け寄ってくる
あのこの " あの音 ” が
頭の中に …
―
… カ っ シャ ァ
カサっ カサァ …
―
ゆきは
あの家での様が 思い出されれば …
自分の今の状況も 頭の中に出てきて
―
… そう ね …
「 すみ ま せん …
やっぱり 止めます 」
「 え?」
―
ゆきの突然の申し出に慎は驚く
―
「 … すみませんでした ぁ …
やっぱり … 飼えません
このこには もっと
善い 飼い主さん
見つかると 思いますから
こんなに 可愛らしいし …
ね! シン いこ!」
―
ゆきは 仔犬を店員さんへ返し
慎の腕を強く引っ張って店外へ出た …
—
「 ゆき?」
―
慎は不思議そうな顔をしている
―
「 ごめんね
せっかく 店員さんと
お話 してくれたのに …」
「 ん … まぁ な …
たしかに …
いまは 無理かな …
俺もさ マンション
やっぱ引っ越そうって
思ったしな …」
「 え?」
「 いや … さっき さ
… 食事んとき
ふとさ …
やっぱあそこ
危ない って …
会社の連中だってさ
知ってるとこだからさ
ま … 先に 職探しで
一月以内って …」
「 そ …」
… そうね … 逃げてるワタシに は
あのこを … なんて 資格ない …
—
ゆきが思いとどまったのは
慎に謂われる前だったけど
けっきょくはそうで …
でも ゆきのそれは …
あのこ が 知らせてくれたのか
それとも
虫の知らせだったのか …
そのこを抱いて帰らなかったのは
たぶん そうなって? いた からで …
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