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❀16.❁°˖✧
慎は
ホテルに移ってもくつろぐ様子を
みせない
部屋に入ってからしばらくたっても?
ゼンゼン なにも起こらないのに?
その広くはない部屋から
外には ゆきを出したがらないし
ここは駅チカの ビジネスホテルだから
窓も小さいのに? カーテンを開ける事
も なく
そんなんじゃ …
窮屈そうで
緊迫感もで
だから どうして良いのか分からずに
ずっと 緊張したままの心配顔のゆきに
慎は 少しでも気が抜ければいいと
穏やかに 云って 聴かせる
—
「 なぁ … 俺
八丈島出身て言ったㇿ?」
「 え? うん …」
「 そ で! 今の季節
気候も安定してるし
海は キラキラで
フルーツも 野菜も
旨いもん も
たぁくさん あるし
あっちには
俺の伯父が居て …」
「 おじさん?」
「 うん … いまは
独りなんだ 独り暮らし!
だから これから
飛行機のチケット取れ次第
あっちに 往くから …」
「 八丈島に往くの?」
―
八丈島の事は 慎と話をした事があって
も このタイミングで? っと
ゆきには意外で キョトンと眼が大きく
なる
 ̄
「 あぁ …
それまで こっちから
持っていきたいもの?
あったら いまのうち
に 買い物だな …」
「 … うん 」
… え? … ワタシ
ほしい もの は …
―
ゆきはこのとき 慎に謂われた事で頭
に浮かんだ のは やはり
あの 連れてこられなかった仔犬で …
でも …
―
「 … う … ん
ワタシ 欲しい物
なんて …
なにもないよ!
それより
ここ 窮屈じゃない?
シン ごめんね …
ワタシのせいで …
それに 伯父さんとこ
考えてくれたけど
大丈夫 なの?
いきなりで …」
―
慎が
ゆっくり 優しい話し方をしても
こんなになにもかも
突然すぎて は
この先を どうするのか を
慎だって困惑し 焦っているのだろうと
の事は
なにも考えられない ゼンゼン役立たず
な ゆきにも 分かるし …
それに
いまも目の前にいる慎は
ただ優しくて
でも きっと
こんなに不自由で
慌ただしく 急かされて?
なんて?
慎は なにも悪くはないのに
とつぜん
追われる身に? なってしまい
あっという間に
仕事も住むところもなくして …
それは 慎が
自分と一緒に居るからで
それは 自分が
勝手に押しかけ 巻き込んで
それは 慎ではなくて自分が
そんなふうにしてしまった と
ゆきはもう 泣き出しそうだった
それを 魅せられては 気が急いている
慎は感情も昂ぶり 「 うっ!」 っと
胸が ツマル
―
「 ん? いや!
気にするな …
俺は ゆきと!
一緒に居たいから
だからな!」
 ̄
こんなときでも 慎は ゆきを責めない
ゆきは そんな慎が 頼もしく
強くて … っと
頭の中が 慎でいっぱいになってくる
それで …
ゆきの主人には 反対に
" こんな目にあわされて ” と?
自分が原因を作ったのに?
怒り も こみ上げてきて …
—
… どうして
主人には 解ったんだろ …
—
ゆきにはもうすっかり
主人は悪役になってしまい
でもこれだって
ゆきには
まだ 主人の事 が
慎の事 が
分からなかった だけ なのに …
 ̄
… 逃げ出した後に
気づくのって遅いけど …
主人は いつまで どこまで
諦めないんだろ …
たかが …
一匹のペットが逃げただけなのに …
… でも 遠い 八丈島なら
ワタシの事なんて 皆 知らないし
主人の事だって きっと 知らないし
なら 誰にも気づかれずに
シンと一緒に暮らしていけるよね …
ゆきは 強くならなきゃと思った
―
「 ねぇ! やっぱ!
八丈島の海はキレイ?」
「 ぁあ! 決まってるだろ!
横浜の港にあたる波は黒いけど
島の波は白波でキラキラ輝いてて
キレイだ!」
「 波サンキューだもんね!」
「 なんだそれ!」
「 だって 車!」
「 あぁ!
だから 偶然だってば!」
「 うん!」
―
ゆきは 明るく答える
その表情に慎も安心し 話を続けた
―
「 あ?
… そうだな ゆき
花は好きか? 島では
フリージア祭りもあるぞ
楽しみにしてㇿ!」
「 フリージア?
好きよ!
愛らしいお花だもん!」
「 海に出れば
ザトウクジラ
あのデカいヤツ!
ホエールウォッチングが
楽しめるし 太平洋の
眺めも抜群! あ…
アオウミガメにも
遭遇できるかもだ!」
「 みたい みたい!
くじら も かめ も
大きいかな?
観れるなら
すごく楽しみ!」
「 あぁ! それ に!
島には フルーツも な!
パッションフルーツ
とか フルーツレモンとか
知ってるか? それ!
皮にも苦みがなくて
大っきくて食べやすいんだ
だから
あしたばだけじゃないんだぞ!
それに
やっぱ こっちでは珍しい
" 島寿司 “ もさ
ヅケ にした 魚ので
ワサビじゃなく
カラシで 食うんだ 」
「 からしなの?」
「 そ!」
「 へぇー! フルーツも
大! 好きだし
お寿司も 楽しみ!
すごいね! いろいろ
いっぱい! いろんな事
できそう!」
「 あぁ! そうだぞ!
島の中 ぐるっと
回ってみるのも
楽しいし 海では
シュノーケリング
とかも できる し
面白そうだㇿ?」
「 うん!
ワタシね 子供の頃
一度も 家族旅行?
連れてって
もらった事 ないし
余裕なくて
どこにも 往った事
なかったから
飛行機も初めてで …
あ! ここ 蒲田も
初めてぐらいで …」
「 そうか …
そう云えばさ …
蒲田って …
昔の映画で?
ゴジラが蒲田に上陸?
するの なかったか?」
「 え? ゴジラ?」
「 うん …
映画の …」
「 見てな い …」
「 そ? ゴジラ?
知ってるか?」
「 うん …
ゴジラでしょ?
知ってる …
昔って 子供の頃?
でも だから
ワタシ 映画も
連れてってもらった事
ないし …」
「 そうか …
近くで ゴジラ
やってないかな …」
… え? … なんで 映画? …
―
ゆきが不思議がっても 慎は もう
止まらないみたいに話し続け …
—
「 なぁ …
京急蒲田駅までは
ここからも歩くから
やっぱ …
少し遅くなるけど
バスで行こうな!
その前に " 餃子!”
喰ってこな!」
「 え? 餃子?」
「 うん …
旨い店 探そ!」
「 う? ん …」
… なんで もう
餃子って決めてる の …
―
慎は もうすぐ ここを離れるから
その短い時間を どう過ごすかで いろ
いろ思いつくまま 喋っている様でも
ゆきには ここにどの位 いるのかも
分からないから 話の展開が速すぎて
戸惑い
聞くだけで
話には突っ込めないけれど
だから? 八の字に下がった
眉毛がピクピクしている
でも!
蒲田がらみでいきなり
その話しだし?
なら それほど?
慎には 興味があったの か?
ならきっと ゴジラの映画ではなく
慎が明日の楽しみにしたのは …
" 餃子 !”
慎は もう この先の考えは決めて
スッキリしたのか いたずらっ子の様
な 笑みもこぼれていた
その表情にゆきは 安心し
—
" はいはい
餃子 ね … “
明日の餃子を想像した …
―
慎は ゆきをさらった? そうできた?
そのときから 目的を果たす ために
それは そのときから?
それ以前から?
ゆきを連れていく最終的な行き先を
八丈島に 決めていて
でも そのまえに
ゆきとふたりで
誰も知らない
ふたりだけの場所を
見つけて
そこで 新しい仕事に就いて
まぁ … せっかくだから?
逃げる だけじゃなく?
楽しそうな新婚生活みたいなのを?
と も …
考えても いたのだが
そこまでは 甘くはなかった様で
八丈島に往くのが
慎の考えよりも 随分と 早くなって
しまったから 正直焦りもあったけど
自分にとっては たった一人の
身内の伯父さんも居るし
伯父さんなら 気兼ねなく
甘えられるから
開き直ったら それでも楽しみに
なってきて …
だけど だから
そうであっても?
それは 慎らしく
ちゃんと慎重に
ゆきにも話さないでいただけで
八丈島へ の 事は
ダレカに聞かれるかもしれないと
さっき 外で言っていた
東急の電車でもJRの電車でも
行けない 処だし
ここから羽田空港へ行ける京急の事も
想像させない様にあえて言わなかった
くらいで …
慎は 勢いだけの いきなりな
でもなく
これは突然だったのかもしれないけれど
ちゃんと考えていた 事 だった …
… でも …
その 八丈島でも …
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