今日から鹿になります

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 健二も由恵も顔面蒼白になった。健二が怒りを仙人にぶつけた。 「おまえ、俺の大切な娘を、よくも鹿にしやがって!」 「待て、そんなに怒るでない。人間に戻す方法がないこともない」  二人の絶望の淵に一筋の光明が差した。 「それは本当か? どうしたら人間に戻るんだ? 秋穂を人間に、どうか人間に戻してくれ!」 「鹿に勝てばいい」 「勝つ?」 「さよう。人間に戻って欲しいという強い願いを込めた鹿せんべいを食べさせれば良い」 「それをすれば秋穂は人間に戻るのか?」 「戻る。そなたの気持ちが強ければな」  仙人は不気味な笑みを浮かべながら、山の奥に消えて行った。健二と由恵は娘を人間に戻すことだけ考えて、無我夢中で奈良公園に行った。  奈良公園に着くと、二人は秋穂、秋穂と大声で鹿に声をかけた。奈良公園に訪れる観光客は、何かのイベントだろうか、もしくは何かあったのだろうかと怪訝な表情をする人ばかりだった。  二人が懸命に秋穂を探しているのとは対照的に周りは静寂と困惑に包まれていた。しばらく大きな声を出して歩き回ると一頭の鹿が耳を立てて、健二と由恵の方に近づいてきた。 「秋穂……なのか?」
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