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『お父さんとお母さんへの最後の手紙
お父さん、お母さん、ごめんなさい。私はどうしても叶えたい夢があって、山の頂上にいる仙人に会いに行きます。誰にも言ったことがない私の夢、笑わないで聞いてもらえるかな。
私、鹿になりたいんだよね。
言うまでもないけど、動物のかわいい鹿です。私が鹿が好きでぬいぐるみも鹿ばかりなのはよく知ってると思う。でも実は本物の鹿になりたいってずっと思っていて。
それで、仙人に会うと夢を叶えてくれるという噂を信じて山に登ってきます。お父さん、お母さん、今まで育ててくれてありがとう。
私、今日から鹿になります!』
娘の手紙を父親の健二と母親の由恵が読み終わると、手紙は無造作に力なく机の上に置かれた。健二は思い詰めた顔をして硬直していた。由恵は床に膝をつけて啜り泣いていた。
「由恵、今すぐ秋穂を探しに行こう」
「でも、あなた、間に合うかしら」
「わからない。でも、仙人は実在する。この町でおかしなことが起こっているのは仙人のせいだ」
健二と由恵は仙人に会うために山に登った。高い山の頂上まで登ると、地面まで白い髪を伸ばした仙人が現れた。仙人に会うと健二は襲い掛かるような剣幕で話した。
「仙人、娘の秋穂がここに来ているはずだ。娘が鹿になる前に返してくれ!」
「一足遅かった。もう、そなたの娘さんは鹿になっておる。奈良公園まで送り届けてやった」
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