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 この復興プロジェクトにゴーサインが出たのは、地本の支援団体に所属する宇佐美朋子の力が大きかった。  彼女もまたバスケットの経験者で、かつてはインターハイに出場するほどの選手だった。  スポーツへの理解が深い彼女は、本土と残島のパイプ役となりプロジェクトを遂行させた。  コートに一陣の風が吹く。  草太はボールを掴み、目の前の少女と対峙する。  右脚を軸にして、左脚で相手の動きを探る。 ––––さて、どう攻めようか。  コートのまわりには、参加者たちが草太と少女のプレイを観戦している。  八割が十代の女学生だ。保護者に関してはすべて母親だった。  つまり、ほぼ男はいない。  唯一の男は、草太と支援メンバーのもう一人。  それと、バスケットコート管理者の犬飼だけだった。  その理由が頭の片隅に浮かんだ瞬間、少女の気配が変わった。  スティール。  彼女の手が草太のボールを弾こうと疾風のごとく動いた。  咄嗟にボールを脇に寄せスティールをかわす。  あと少しでボールが奪われていただろう。  草太は少女の名前を思い出す。  たしか、花立南といったか。宇佐美からは高校一年生だと聞いている。 ―――やるじゃないか、南さん。  草太はシュートフォームを作る。が、それはフェイクだ。  両手を大きく上げる少女の脇のすり抜けドリブルで駆ける。  ダム、ダムと島中にドリブル音を響かせるようにゴールへと突き進む。  レイアップで決めるため、右脚で一歩目を踏ん張った。と、その時だった。  少女は草太の前に現れ壁を作った。 ―――もうここまで回りこんできたのか。  身長差と手のリーチを考えるなら、このままシュートを決められる。  だが草太は、わずかに隙を与えた。  一秒もない刹那に、ボールを無防備にさらした。  少女は手刀で振り払うようにブロックに成功する。  会場がどよめいた。 ――今の隙に気づけるとは、さすがだ。  この子はディフェンスの才もある。草太は確信めいた思いを抱いた。  攻守を入れ代わる時、大地を震わせる地響きのような音が接近してきた。  それは自衛隊の大きな車両だった。
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