ゲームが始まる

4/7
34人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 プロバスケットボール選手になり、デビュー戦を翌日に控えた日に、日本全域大震災は起きた。  リーグ戦で勝ち抜き、優勝し、いずれはバスケの聖地アメリカでプレイしたいと願っていた。  そのための努力は惜しまずにやってきた。  だが、震災が夢を奪った。  あれから草太にとって、バスケットは生活するためのだけのものになった。  試合が皆無になった状況で、学校の臨時指導員や復興支援員として日銭を稼いで生きてきた。  バスケットが楽しい、という感覚などとうに消滅していた。  大きな雲が、残島の空に覆いはじめる。  少女のオフェンスの番だ。  少女はピボットをして攻撃の糸口を探している。  草太は抜かれないように、腰を落としディフェンスをする。  少女の視線が左に向けられた。 ―――またフェイクか。  彼女の癖は見抜いていた。左にいくと見せかけての右脇をくぐる、という攻めのパターンだ。  草太は重心を右に向けて両手を広げた。  だが、その一瞬だった。  少女はジャンプする。シュートフォームに入る。  草太は瞬時に反応しブロックに入る。彼女は大勢を後ろにそらす。そして、ボールを放つ。 ―――フローターシュート!!  振り向くと、ゴールネットは揺れていた。  完全にやられた。  草太は転がるボールを目で追うことしかできない。  こんなシュートも持っていたとは。 「シューターとしての素質もあるよ。南さん」   復興イベントとして、学生にお世辞をいったわけではなかった。本心だった。  この子は本物だ。  草太の胸がざわついた。  だが、少女は何も答えない。そういえば、まだ一言も彼女の声を聞いていない。 「良かったら、本土に行って、女子バスケの強化選手にならないか」  少女の目が大きく開いた。 「キミが良ければ、バスケット連盟に僕から推薦してみるよ」 「・・・・・・」  少女は地面に目を落とす。返事に窮しているのだろうか。 「答えは焦らなくていい」  草太はボールを拾い、「さぁ、再開しよう」スタートラインに立つ。  復興イベントと思い手加減をしてきたが、それはやめた。  プロの技術を見せよう。  円を描くようにボールを動かしたあと、足を前に出しドライブ・・・・・・ステップフェイク、続けてポンフェイク(シュートの振り)。それに反応した彼女の隙をつき、小刻みのドリブルを刻み突破。少女は喰らいついてくる。  ボールを股に通すレッグスルーをしてデフェンスを揺さぶる。草太はチェンジオブペースで緩急をつけて少女のリズムを崩し、さらにバックチェンジをして完全に抜き去った。  草太はフックシュートでゴールを決める。  参加者たちの歓声が孤島の大地を震わせた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!